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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第90章
「良かった。はい、あ~ん」
ヴィヴィはピンに刺したブラックオリーブを、匠海の口元へと寄せるが、兄は「待て」と妹を制し、ソファーを立った。
リビングと廊下を繋ぐ扉、兄妹の私室を結ぶ扉……その両方を施錠した匠海は、ヴィヴィの隣に座りなおした。
再びピンに刺したオリーヴを兄に差し出したが、匠海が不服そうな顔をしているのに気付き、ヴィヴィは口移しでそれを与えた。
(可愛い。やっぱりお兄ちゃんは、甘えん坊さんなのっ)
「美味しい?」
そう言って兄を覗き込むと、にやりと笑われた。
今日もハイペースで飲む匠海に、ヴィヴィはワインクーラーからシャンパンボトルを取り出し、クロスで雫を拭うと兄のグラスに注ぐ。
そしてそのボトルを両手で持つと、しげしげとそのラベルを見つめた。
「うん? 呑みたいのか?」
そうからかってくる匠海に、ヴィヴィは笑いながら首を振る。
「まさか~。あのね、FPの『サムソンとデリラ』……、主に“バッカナール”を使うの」
サムソンとデリラ。
旧約聖書の士師記に登場するその物語を、サンサーンスが作曲し、オペラへと発展させたもの――をヴィヴィは演じる。
イスラエルの民がペリシテ人に苦しめられていた頃、神の使いの予言により怪力サムソンは誕生した。
『見よ。あなたは不妊の女で、子どもを産まなかったが、あなたはみごもり、男の子を産む。
今、気をつけなさい。ぶどう酒や強い酒を飲んではならぬ。汚れた物をいっさい食べてはならぬ。
見よ。あなたはみごもっていて、男の子を産もうとしている。
その子の頭にかみそりを当ててはならぬ。
その子は胎内にいるときから神へのナジル人(聖別された者)であるからだ。
彼はイスラエルをペリシテ人の手から救い始める』
旧約聖書 士師記 十三章―十六章
そして成長したサムソンは、ロバの顎骨をふるい、その怪力で敵のペリシテ人1000人を打ち殺した。
その後、サムソンは敵であるペリシテ人のデリラという女性を愛するようになる。
ペリシテ人と通じていたデリラはサムソンを誘惑し、怪力の秘密の一つ『頭にかみそりを当ててはならぬ』を掴み、彼の髪を剃り落し、目を抉り出して牢屋で粉ひきをさせた。