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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第18章
大学四年生で来月二一歳になる匠海は、大学の授業がない時は父の会社で後継者教育も受けている。
そんな匠海を深夜に呼び出してしまったことに、ヴィヴィは罪悪感を感じてしまい眉を寄せて謝った。
「専務と食事に行ってただけだよ、気にするな。しかし、久しぶりにうちのリンクに来たな~。ちょっとその辺見てくるから、アップがすんだら呼んで?」
「分かった」
篠宮家の出資しているリンクであるここを確認するためか、匠海はカフェや会議室のあるほうへ行ってしまった。
体が温まったヴィヴィは上着を脱いでカバンの中を漁る。
手にしたのは三田ディレクターから貰ったベールだった。
黒い上下の練習着の腰の上に、漆黒のベールを適度な長さに調節して巻く。
動く度に縁の金属がシャラリと軽やかな音を立てた。
ヴィヴィが振付の最終チェックを終えた頃、缶の紅茶を手にした匠海がリンク傍へと戻ってきた。
「準備できた?」
フェンスの上で冷えた指先を缶で温めるように包み込んだ匠海が、ヴィヴィに確認してくる。
こくりと頷いたヴィヴィの胸の内はというと、初めて人に自分の創ったFPを見せる不安と、匠海の前で自分と重ねている「サロメ」を演じて見せるという緊張で、鼓動がすごい状態になっていた。
「ヘロデ王が義娘の舞を、今か今かと所望しておる――。さあ踊って見せてご覧?」
緊張した面持ちのヴィヴィを解そうとしてか匠海はそう言ってにやっと笑うと、ヴィヴィの演技がよく見えるようにとリンク中央のフェンス脇へと歩いて行った。
ヴィヴィはその後ろ姿を見ながら心を決める。
(この曲に出会ってから、私はできる限りのことをしてきた――だからきっと大丈夫。うまく滑れる……)
ヴィヴィは胸に手を当てて指先で生地一枚隔てたネックレスに触れると、ふうと息を吐きだしてCDの音源を再生した。
リンク中央へと歩み出て、目の前の匠海の前でポーズをとる。