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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第91章
「……おやすみなさいの、ちゅー……」
しょぼくれた表情で拗ねた様にそう言い募る妹に、匠海は破顔した。
「あはは、そうだな。忘れてた」
ベッドに掌を付いた兄が、身を横たえたままのヴィヴィに、顔だけを寄せてその唇を優しく吸った。
柔らかな唇と、少しの濡れた感触――その兄との触れ合いにほっとしたヴィヴィだったが、与えられたのはたったの1回だけで。
ちゅっとリップ音をさせて離れていく匠海に、ヴィヴィは瞳で追い縋る。
「もっと……」
「駄目。また、明日いっぱいしてあげるから」
彫りの深い鼻梁の奥、切れ長の瞳を細めて微笑む匠海に、ヴィヴィの灰色の瞳がぴくりと震えた。
(……明日は『鞭』の日だから、キス、してくれないから……。いっぱい欲しかったのに……)
「………………ん」
寂しそうに頷いたヴィヴィに、匠海はその頭を優しく撫でると、もう一度今度はおでこに金髪の上からキスを落とした。
「可愛いヴィクトリア……。俺の夢、見て……」
そう歯の浮く様な事を言ってくる兄に、ヴィヴィは微かに首を傾げた。
「夢の中のお兄ちゃんは、ちゅー、いっぱいしてくれる……?」
「ああ、きっとな……。ヴィクトリア、おやすみ」
妹の子供っぽいその質問に、匠海は微笑みを深くしてそう答えた。
「……おやすみなさい」
ゆっくりと目蓋を閉じたヴィヴィを確認して、匠海は寝室を去って行った。
そして疲労がピークに達していたヴィヴィは、その10秒後には深い眠りについていた。
9月24日(木)。
ランチ後の1時間、国内受験組の数人と数学の個別学習をしたヴィヴィは、休憩中、自分の席でぼ~っとしていた。
(ふわわ……。ランチ食べたら眠くなっちゃった。あと1時間勉強して……ダンスの練習して……)
ヴィヴィは頭の中で今日のスケジュールを確認する。
帰宅後にクリスと勉強、ディナー後にリンクに行き、そして帰宅後に待っているのは――。
「………………」
ヴィヴィは椅子から降ろした細長い両足をぷらぷらさせる。
今日は『鞭』の日だ。
匠海は『飴』と『鞭』を交互に与えるから、きっとその筈だ。
しかし、いつもなら重苦しくなるその事実にも、今日のヴィヴィはさほどでもなかった。