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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第91章
「………………」
ヴィヴィの灰色の瞳に浮かぶのは、諦めと失望と、紛れもない寂しさの色。
(全部、自分が蒔いた種って、分かってるんだけど……)
それでも悲しくなる。
腹立たしくなる。
“人形”と揶揄される言葉を聞くと、耐えられなくなる。
それはきっと、ヴィヴィの心の奥底に「兄にそう思われているのでは?」という恐怖が、根深く残っているからに他ならない。
本鈴の音に気付き、肩の上のクリスを見下ろすと、ぼ~っとしている様で動く気配はなかった。
ヴィヴィもなんだか教室へ戻る気分にもなれず、ただずっと目の前に広がる景色を眺めていた。
その日の夜、12時を回った頃。
ヴィヴィは兄の寝室で匠海と対峙していた。
妹が前回に引き続き制服を身に纏っている事に、悔しそうな表情を浮かべている兄。
そして、勝ち誇った表情を浮かべている妹。
「狡い」とは罵られるものの、「脱げ」とは言わない兄に、ヴィヴィはにっこりと微笑んでその傍へと寄った。
「だってね、ヴィヴィは、お兄ちゃんの“生徒”でしょう?」
そう囁きながらベッドの傍に立ち尽くした匠海を、ヴィヴィは見上げる。
「は? 生徒?」
訳が分からないといった表情を浮かべる兄に、ヴィヴィは艶々の唇を尖らせる。
「お兄ちゃんが、言ったんだよ? 『良い事も悪い事も、全て俺が教えてやるよ』って」
それはクリスマスに帰国した兄に、大人になったらお酒の飲み方を教えて欲しい、と強請った自分へと返された言葉。
「……っ くそっ 揚げ足取りやがって……っ」
「……怒っちゃ、やっ」
自分の言動を思い出したのか悔しそうに舌打ちした匠海に、ヴィヴィはぼそりと呟いて兄の胸に縋り付いた。
茶色のバスローブの胸に顔を埋め、猫の様にすりすりと額を擦り付ける。
(お兄ちゃんを出し抜きたいとか、そういうのじゃないの……。ヴィヴィはただ、普通に抱いて欲しいだけ。ヴィヴィを見て、ヴィヴィを抱いてるって、そうお兄ちゃんに思って感じて欲しいだけなの……)
「……別に、怒ってはいない……」
そうぼそりと零した匠海は、ぽすと軽い音を立てて高いベッドの上に腰を下ろした。