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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第92章
「なあクリス……。なんでヴィヴィ、あんなに『人形』っていう言葉に敏感なんだ……?」
アレックスが声を潜めて、クリスにそう話を振る。
「え……?」
意外そうに親友を見つめたクリスに、アレックスは躊躇いがちに口を開いた。
「実は俺、前に聞かれたんだ。ヴィヴィ本人から……。ヴィヴィ『人形』みたい? って……」
「そう……。実は僕も、心当たりなくて……」
困惑の色を浮かべた灰色の瞳が、離れた所で笑っている双子の妹へと向けられる。
「そっか……。ヴィヴィ、いつも笑顔しか見せないから、心配……」
そう言って、ふ~と高い鼻から息を吐き出したアレックスに、クリスは頷いて妹そっくりの薄い唇を開いた。
「分かった。気を付けて、見とく……」
その日の夜。
リンクから戻ったヴィヴィは、就寝準備をすると早々に寝室へ引き篭もった。
今のヴィヴィにはこの寝室以外で、1人になって考え事をする時間が殆ど無かった。
けれど睡眠時間を削ってでも考えなければと思ったのだ。
兄が自分に『鞭』を与えた意味――を。
キングサイズのベッドヘッドに背中を預けたヴィヴィは、枕を抱えながら「う~ん……」と唸る。
何となくだが、昨夜の匠海の様子を見て、兄は自分に『鞭』を与える事を苦痛に感じてきているのではないか、と思った。
兄が苦しそうだったから制服を脱ごうとしたのに、拘束してまで止められた。
そして制服を着た自分に『鞭』を与えられない兄。
たぶん次回の『鞭』の日、ヴィヴィが制服を着なくても、兄はもう『鞭』を与えないのではないだろうか。
「………………」
「なんで?」と聞かれても、答えは「分からない」――としか言い様がない。
なんとなくそう思う、そう感じる。
そして全ての疑問の原点に立ち還ると、“これ”が解らないと何も説明がつかない。
兄が自分に『鞭』を与えた意味。
ヴィヴィはもう1つ枕を抱え込むと、そこにぽすりと細い顎を預ける。
(最初は、思ってたんだよね……。ヴィヴィを甘やかしてばかりいるとすぐに自惚れるから、たまに酷くして、お兄ちゃんにとっては“ただの所有物”だと分からせようとしているんだって……)