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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第92章            

 今も8割がた、それが正解だと思っている自分がいる。

 ただその一方で、「兄はそんな単純な人間だったか?」と疑問を呈する自分もいた。
 
 “ただの所有物”と分からせようとするのであれば、言葉で言えばいいのではないか?

 「お前は俺の性欲処理のための道具だ」と。

 そして普通にヴィヴィを抱けばいいだけの事。

 もちろん兄を男として愛している自分は、途轍もなく傷つき落ち込むだろうが、それは別に匠海には関係のないことだろうし。

(……何か、ヴィヴィに伝えたい事があった……?

 ヴィヴィに気付いて欲しい事があった……?)

 例えば、言葉で伝えて解るのではなくて、自分で体験して身を以て解かって欲しい――とか?

 ヴィヴィの眉間が僅かに寄せられる。

 深読みし過ぎかも知れない。

 けれど匠海は昔から思慮深く、よく周りの人間を見ている人だったから。

 何か考えがあって『鞭』を与えたのではないかと思ったのだ。

 正直、『鞭』を与えられた当初はもう混乱して落ち込んで、そして兄に捨てられまいと必死に縋り付いていただけの自分だったが。

 『鞭』を与えられなくなって、少し精神的に落ち着いた今になってやっと、自分は周りが見渡せるようになったのかもしれない。

「……お兄ちゃんの、伝えたかった事……?」

 そう声に出してみるが、そう簡単には解る筈もなく。

 うんうん唸っていたヴィヴィは、かちゃりと小さな音を立てて現れた来訪者の存在に、全く気付いていなかった。

「う~~ん……。変態さんの考えることは、よく分かんない……」

 枕の中にもそもそと、そう疑問を吐き出したその時、

「お前……。変態って、酷過ぎないか?」

「―――っ!?」

 いきなり真横から掛けられたその声に、ヴィヴィは文字通り飛び上がった。

(い、いつの間に……っ!?)

 すぐ傍に立っていた匠海に驚いたヴィヴィが、あんぐりと口を開けたまま兄を見上げていると、ふんと鼻で笑った匠海がベッドに上がってきた。

 
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