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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第92章            

 どうやら先程帰宅したばかりらしい匠海は、紺地のストライプのスーツにボルドーのタイ、薄いピンクのシャツというい出立ちだった。

(うわぁ……カッコいい……っ)

 先刻まで考えていた事も、自分の失礼な発言もぽんと記憶の彼方へ飛んでしまうほど、目の前の兄は凛々しくて素敵だった。

 しかしヴィヴィは何故か頬をぷうと膨らませる。

「お兄ちゃん~、今日何人の女性に声掛けられた~?」

 恨めしそうに睨みながら聞いてくる妹に、匠海は「はあ?」と間抜けな声を上げる。

「何人に声掛けられたか聞いてるのっ!」

 むくれながらなおも言い募るヴィヴィに、兄はちらりと斜め上を見上げると「3人、くらい?」と馬鹿正直に答えた。

「―――っ!? や、やっぱりぃ~……orz」

 ヴィヴィはがくりとベッドに両手を着き、うな垂れる。

「やっぱりお兄ちゃん、めちゃくちゃモテるんじゃない~っ だってこんなにカッコ良くて、頭もいいし、スタイルもいいしっ 黙ってれば変態さんだってバレないしぃ~~っ!!」

 泣きそうな声でそう喚く妹の酷い言い様に、匠海はその両腕を掴んで自分へと引っ張った。

「……お前なあ~~っ」

「……お兄ちゃん、丸坊主にしない? それかビン底メガネをかけるとか、物凄くダサいスーツ着るとか……っ」

 両の二の腕を捕まれて拘束されながらも、“匠海が少しでもモテなくなる方法”を口にしたヴィヴィに、さすがの兄も吹き出した。

「あははっ いいけど、そんな俺をヴィクトリアは愛してくれるのか?」

「うんっ ヴィヴィはお兄ちゃんが誰よりもカッコいい事、もう知ってるから!」

 そう自信満々に笑ったヴィヴィに、匠海は呆れ返ったのか、溜飲を下げたらしい。

 ヴィヴィをひょいと持ち上げると、自分の股の間に後ろ向きに座らせた。

 後ろからきゅっと抱き締められたヴィヴィは、嬉しそうに兄に身を預けた。

(えへへ。背中、お兄ちゃんと触れ合えて、温かい……)

「そんなに今日の俺、カッコいい?」

 ヴィヴィのナイトウェアの肩に顎を乗せた匠海が、そう楽しそうに聞いてくる。

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