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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第18章
「えっと……さ、三月からベリーダンス習いに行ってたの。サロメの踊りは『義父を誘惑する』ものだから、ベリーダンスが一番に思い浮かんで……」
「ベリーダンス! 中東風だと思ったのはそれでか。だからか……全身の動きが昨シーズンとは明らかに違う――」
匠海のその感想に、ヴィヴィは自分の成長を認めてもらえてほっと胸を撫で下ろした。
しかし肝心な事を確認し忘れていたことに気づき、恐る恐る口を開く。
「ゆ……誘惑できた――?」
「ん?」
ヴィヴィの唐突な質問に、匠海が不思議そうな顔で聞き直す。
「お、お兄ちゃん、言ってたでしょう? 『俺をヘロデ王だと思って、必死に誘惑してよ?』って……」
ヴィヴィは指先で腰に巻いたベールの端を弄びながら、ちらちらと匠海の様子を伺う。
「ああ、そうだったな……。実は、後半――」
ちょっと困ったように言いよどんで形のいい唇に手を添えた匠海に、ヴィヴィがそわそわしながら先を促す。
「こ、後半?」
「うん……後半に音楽が変わったところで、ヴィヴィが俺に視線を寄越しながら足を見せつけるような振付があっただろ? あの時……」
また言いにくそうにした匠海だったが、ヴィヴィが必死な表情で見つめていることに気づき口を開いた。
「ぞくぞくした――正直……目の前で踊っているのが『妹』っていうこと忘れて、身を乗り出して魅入ってた……」
(うそ…………っ!?)
「…………ほ、ほんと?」
匠海が自分の演技に魅入ってくれた――まさかそんな言葉が返ってくるとは思っていなかったヴィヴィは、驚嘆と紛れもない内から湧き上がる喜びに、唇が震えた。
「ああ……たぶんジャッジもあの目で見られたら、どんどん加点してしまうんじゃないか?」
ちょっと褒めすぎたと思ったのか、匠海は照れたようにヴィヴィから視線を外すと、口を覆っていた手で頬をかいた。
「あは……だといいな……」
ヴィヴィは嬉しくて涙が溢れそうになるのを必死で誤魔化すように笑った。
「けれど……欲を言うならば、もっと自信を漲(みなぎ)らせたほうがいいかも――サロメは王女だからね。欲しいものは何でも手に入れてきた傲慢さを醸し出せればいいんじゃないか? ヴィヴィはもともと品があるし、その点はとてもサロメに合ってると思う」