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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第92章
薄紫色のそれは、SP『喜びの島』の衣装。
一見アオザイにも見えるほどシンプルなそれは、胸から上は透けており、両肩のラインに沿った襟元と大きくV字に開いた背中に、透明な大小のビジューが多数縫い付けられている。
裾は透ける素材の2枚の布地がひだも付けずにシンプルにあるだけで、全体的にすとんとしたシルエット。
今まで着てきた衣装の中で一番シンプルで、ひらひらもふわふわもしていなかった。
「あら、まだお腹回り、ぶかぶかのままね。英国から帰国してもう1ヶ月以上経つのに……。ヴィヴィ、ちゃんと食べてる?」
英国の里帰りから帰国した直後、痩せてしまっていたヴィヴィにはその衣装の腰回りが緩かったのだが、何故か今もぶかぶかのままだった。
「もちろん。昨日なんて栗ごはん美味しくて、ヴィヴィおかわりしちゃいました~」
ヴィヴィは昨日のディナーを思い出し、にやっとする。
秋刀魚の塩焼きにキノコのホイル焼き、明日葉をはじめとする山菜のてんぷら、松茸のお吸い物に栗ごはん。
秋の味覚勢揃いだったそのメニューを堪能したヴィヴィは、厨房へ飛んで行って料理長に直に「美味しかったっ!」と礼を言ったくらい大満足だった。
「そう。変ね……。普通このくらいの年の頃って、水飲んでても太っちゃいそうなのに」
両腕を組んで不思議そうにそう発したジュリアンに、ヴィヴィは首を捻る。
「ふうん、そうなんですか?」
能天気そうにそう返したヴィヴィに、ジュリアンが厳しい目を向ける。
「……ヴィヴィ、あんたまさか、吐いてないでしょうね?」
「吐く……? いいえ。どうしてですか?」
思いがけない母の指摘にヴィヴィは驚いたが、本当に最近は吐いていないので正直に返事した。
「ん~……。急性胃炎、再発したんじゃないかと思って」
心配そうに娘の顔を覗き込んでくるジュリアンに、ヴィヴィはもう高校3年なのに気苦労を掛けさせて申し訳ないなと思う。
「本当に全然吐いてませんよ? それとも、もっと無理して食べたほうがいいですか?」
「う~ん。それは栄養士に判断して貰うわ」
ジュリアンのその妥当な判断に、ヴィヴィも同意する。