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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第92章
「ああ……。ずっと昔から思っていた。お前は小さな頃から、本当に天使みたいに可愛らしくて……。スケートをしている時も、バレエを踊っている時も、こんなに愛らしいなんて、まるでぜんまい仕掛けの人形みたいだなって。本当に生きてる人間なのかなって」
どこかぼんやりとしていた兄の瞳が、やっと目の前の妹に焦点を合わせ、その全身を隈なく見詰め直す。
「この白い肌も、黄金色の髪も、いつも輝いている灰色の瞳も……。いつまでも色褪せなくて。正直、ヴィクトリアは年なんか取らないんじゃないかとさえ思ってしまう……」
「……おにい、ちゃん……?」
「お前は本当に、陶磁器でできた人形の様に、美しい……。
こんなにつるりとして輝いて見えるのに、
触れると柔らかくて気持ちのいい、極上の抱き心地……」
まるで歌を唄うように兄の唇からすらすらと溢れ出る言葉に、ヴィヴィは身じろぎ出来なかった。
止めたいのに。
こんな言葉、両手で耳を塞いで、聴こえない様に大声で喚いてしまいたいのに。
まるで己の身を焦がす熱情に冷水を浴びせ掛けられたように、何もかもが瞬時に冷え固まってしまって。
そして匠海は、自分の腰の上で硬直している妹を、下からゆっくりと突き上げた。
ぐちゅんという小さな蜜音が、静かな寝室に響くのに続いたのは、心底嬉しそうな兄の声。
「そして、この世で俺だけが知っている、ヴィクトリアの女の部分。
きつくて貪欲で、俺を包み込んで全てを受け止めてくれる、俺だけのもの――。
本当に、お前は俺の為だけに設えた人形の様だ。
俺の、ヴィクトリア……、ずっと俺だけのものだ――っ」
そう甘く囁いた兄は、心底幸せそうに、うっそりと微笑んだ。
「………………」
ヴィヴィの表層という表層に、形を成す外殻に、さあと微かな震えがさざ波の様に走った。
(……人……形……)
薄い胸の内でその呪わしい単語を繰り返したヴィヴィの、その細い躰から何かがふっと抜け落ちた。
「嬉しい……、お兄ちゃん……っ うれしいっ」
遠くで声がした。
自分の、心底嬉しそうな、幸せそうな甘い声。
それは “兄が求める自分” が発する声。
兄の言う事を信じ、兄の命令に従順な、そんな自分が発する言葉。