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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第92章
広いバスルームに響くのは、ヴィヴィの嬉しそうな笑い声。
そして、リラックスした匠海の声。
兄に湯を掛けられて撫でられる度、くすくすと擽ったそうに笑うヴィヴィに、匠海がふっと瞳を細めた。
「ヴィクトリア……。明日、スケートのレッスンが終わった後、葉山に行かないか?」
「え? うん」
兄が言う葉山とは、五輪で金を獲ったヴィヴィが、「デートして」と強請って連れて行って貰った別荘のある場所。
ヴィヴィが、匠海に泣いて告白をしてしまったあの場所だ。
「一緒に料理して、食事して。海はもうクラゲがいるか……? 色んな事して、一緒に過ごそう?」
そう楽しげに囁く兄に、ヴィヴィはこてと首を傾げる。
「お兄ちゃんの手料理?」
「手伝えよ?」
妹の白い頬を柔らかく抓ってくる兄に、ヴィヴィは破顔する。
「うんっ じゃあ、朝から行こう? ヴィヴィ、ここのところ1日もスケート休んでないから、休む」
「いいのか?」
心配そうな兄の言葉に、ヴィヴィはしっかりと頷く。
「うん、サブコーチに休めって、ずっと言われてたの。ん~と、お泊りもする?」
「どうしようか。一応、着替えは持っていこうか?」
まるでヴィヴィと悪戯でも企てるかのように楽しげに発する匠海に、ヴィヴィは満面の笑みを浮かべる。
「分かった~」
「楽しみだな」
心底嬉しそうにそう囁く匠海を映していたヴィヴィの瞳が、ゆっくりと目蓋の奥に隠れていく。
「う、ん……。お兄、ちゃ……ん――」
「ふ……、なんだ、寝ちゃったのか……?」
そう面白そうに囁く兄の声が遠くに聞こえた。
目蓋が重い。
思考が混濁する。
躰がふわふわする。
左右に上下に自分が揺れる。