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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章
リビングにピンク色のナイトウェア姿の主を認めた朝比奈は、爽やかな笑顔を浮かべて口を開く。
「おはようございます。お嬢様。今日も素晴らしい秋晴れですよ」
穏やかでいつも通りの朝の挨拶に返されたのは、視線を合わせない虚ろな瞳。
「朝比奈。ヴィヴィ、リンク行かないから」
開口一番そう静かに発したヴィヴィに、朝比奈の表情が途端に心配そうなそれに変わる。
「お嬢様。どこか具合でもお悪いのですか?」
「ううん。朝からお兄ちゃんとお出掛けするの」
気遣わしげに掛けられたその声にも、ヴィヴィはまるで棒読みの様に返事を返す。
「匠海様と、ですか……? 畏まりました。奥様とクリス様に、そうお伝えしておきます」
一瞬、銀縁眼鏡の奥の瞳を眇めた朝比奈だったが、静かにそう返してきた。
「ヴィヴィとお兄ちゃんは、7時に朝食とるから」
「畏まりました。ではまたその頃、お伺い致します」
そう断り退室しようとした朝比奈の背中に、ヴィヴィは付け加える。
「朝比奈」
「はい?」
振り返った朝比奈の目の前で、ヴィヴィは白いキャビネットのガラス扉を開き、中から1体の縫いぐるみを大事そうに手に取り、扉を閉めた。
「この中の物、全て処分しておいて」
「はい? ……お嬢様……?」
朝比奈が聞き返したのも無理はない。
その中に収められているものは、ヴィヴィが幼少の頃から授与されたトロフィー、メダル、盾など、スケートやバレエ、ピアノやヴァイオリンに関する、輝かしい成果の象徴ばかりだった。
「いいから、処分して。もう、見たくないの」
そう再度言い渡したヴィヴィは、縫いぐるみを手に寝室へと下がっていく。
「……畏まりました」
ヴィヴィの細い背に掛けられたのは、呆然とした様な朝比奈の言葉だった。
寝室の扉を閉めたヴィヴィは、ベッドへと近付いていた脚をふと止める。
「………………?」
不思議そうに首を傾けたヴィヴィは、踝丈のナイトウェアの裾をたくし上げた。
生白くも見える細い太ももに伝い落ちるのは、粘度の高い白濁。