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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章          

「気のせいか、朝比奈が俺を見る目が、冷たい様な気がするんだけど……。何かしたかな、俺?」

 兄妹を乗せたBMWが首都高に乗ってしばらくして、匠海はそうぼそりと呟く。

「そう?」

 先程からあくびを噛み殺してばかりいる助手席のヴィヴィは、短くそう尋ねながら運転席の兄を振り返る。

「ん~、まあ、気のせいかな……?」

 黒いサングラスの奥の瞳がふっと細められるのを、見惚れるように見つめていたヴィヴィは、進行方向へと視線を戻す。

 日曜の8時過ぎ。

 さすがに首都高は少し混んでいた。

「お兄ちゃんが朝比奈を気に入らないなら、ヴィヴィ、五十嵐にお世話して貰おうかな?」

「え……?」

 驚きの声を上げた匠海の視線を強く感じ、ヴィヴィはそれがルームミラー越しのものだと気付き、その中の兄の瞳に対して首を傾げてみせる。

「どうかな?」

「いや……。お前の好きにすればいいよ。どうせ俺、会社ばかりで家には寝に帰るだけだしな。五十嵐もお前の世話をしてるほうが、充実していいかもな」

「ん。じゃあ、そうする~。ふわわわっ」

 大きなあくびを掌の中に吐き出しながら、ヴィヴィはその話を打ち切った。

「ヴィクトリア……、お前、何かあった?」

 気遣わしげに掛けられた兄の問いに、ヴィヴィはルーズに編み込んだ三つ編みの髪を指先で弄る。

「……? 何にも無いよ? それよりお兄ちゃん、今の違うっ」

「ん?」

「お兄ちゃんはおうちに“寝に帰るだけ”じゃないもんっ」

 そう拗ねた声で言い募る妹に、匠海はにやりと嗤った。

「ああ、そうだった。俺の可愛いヴィクトリアと気持ちいい事する為――だったな?」

「うんっ」

 兄の答えに満足そうに大きく頷いたヴィヴィは、また溢れ出るあくびを噛み殺した。





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