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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章
「あと、第3者がいる場所ではフランス語かドイツ語かで喋ってれば、近寄りがたくて誰も声掛けてこないだろうし」
「分かった~。ところでお兄ちゃん。よくこんな物、昨日の今日で用意出来たね?」
ヴィヴィはそこが心底不思議だった。
葉山に行こうと誘われたのは、昨日の深夜(今朝)で、さすがの匠海もそれから数時間以内にこれを手に入れるのは、いささか無理があり過ぎると思うが。
「うん……。実は英国で、買ったんだ」
少し言い辛そうに答えた匠海に、ヴィヴィはさらに疑問が増す。
「え、そんなに前に? どうして?」
「…………秘密」
そう言って自分のバッグから財布とスマートホンを取り出した匠海は、ポケットに仕舞うと車のドアに手を掛けた。
「……あ、もしかして、その頃から、ヴィヴィとお出掛けしようって、思ってくれてたの?」
まさかと思いながらそう発したヴィヴィに、兄は外を見ながらぼそりと呟いた。
「…………まあな」
「やんっ! 嬉しい~っ!! お兄ちゃんっ」
感激したヴィヴィが両手を伸ばして兄の頭を引き寄せたが、
「あ、こらっ 外でキスは駄目だ」
と匠海にすんでのところで制止された。
「えぇ~~? 車の中だよ~?」
「外から見えます」
その兄の指摘にヴィヴィは首を巡らすが、立体駐車場の中には兄妹以外の人間は見当たらなかった。
「……だあれもいないよ?」
「どこに人の目があるか、分からないからね」
冷静な兄の言葉に、ヴィヴィは納得する。
東京五輪の観戦に行った時も、知らぬ間に双子の写真が盗撮されて週刊誌に出たことがあった。
「……ちえ~。でも、ありがとうっ ヴィヴィ、本当に・とっても・めちゃくちゃ・嬉しいよっ!!」
「あはは。なにその“3段活用”みたいなの」
両手を握りしめて力いっぱいそうお礼を言ったヴィヴィに、匠海が可笑しそうに吹き出した。