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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章
「へえ、結構大変だったんじゃないか? 酢飯やら、干ぴょうの煮物に、卵焼きとか、準備するの」
「全然。だってヴィヴィ、まきすに海苔敷いて、酢飯載せて、好きな具材選んで、巻いただけだもん」
そう自信満々に返してくるヴィヴィに、匠海は更に嘆息した。
「……それ、料理した、って言ってはいけないレベル……」
「え~……。でもいいんだ、楽しかったの! すっごく美味しくて、クリスにも――」
嬉しそうにその時の思い出を語っていたヴィヴィが、ふと言葉を止めた。
「ん? クリスにも……、何?」
先を促す匠海に、ヴィヴィは小さく首を振る。
「ううん。何でもない」
「ヴィクトリア……?」
「ね、ランチとディナー、何作るの?」
繋いだ手と反対の手でも兄の腕に縋り付いたヴィヴィは、可愛く首を傾げて匠海の顔を覗き込む。
「え? ああ、そうだな~。今の旬は――」
妹の手を引きながら真剣にメニューを考え始めた匠海に、ヴィヴィは大人しく着いて行った。
食料品売り場に付き、カートに物凄い興味を示していたヴィヴィは、匠海が食材を吟味している間、ちょこちょことその場を離れて陳列棚の間を行ったり来たりしていた。
そして戻って来たその細い腕の中には、10個程の商品が抱えられていた。
「お前……。熊肉の缶詰に、あんこの缶詰、もつ煮の缶詰……って、何がしたいの?」
何故か脱力したようにそう尋ねてくる匠海に、ヴィヴィはにっこり微笑む。
「ん~。なんか面白そうだったから! 他には~、種無し梅と、レモンピール(レモンの皮のお菓子)もあるよ?」
「あ、それは美味しそう……。この缶詰達は、戻してらっしゃい」
ドライブのお供にか、お菓子には興味を示した匠海のその言葉に、ヴィヴィは不満げな顔をする。
「え゛~~……。は~い……」
結局すごすごと缶詰を戻しに行ったヴィヴィは、その後は匠海の周りに纏わり付いて、ぽんぽん籠に入れられていく食材を見つめていた。