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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第19章
ヴィヴィはこのところFSのサロメばかりに気を取られ、学業や付き合いを疎かにしていた自分の行動を振り返った。
思い返せばいつも眠そうにしていたヴィヴィに、カレンをはじめ周りのクラスメートやスケート仲間は心配してくれていた。
なのにヴィヴィは自分のことに手がいっぱいで、そんな周りのフォローにも気づいていなかった。
(もう……私ってほんと周りが見えてない子供……)
「ごめんなさい……。私……自分のことばかりで……」
自分の不甲斐なさに頭を垂れたヴィヴィだったが、その視界に繊細なレースの裾が入り、不思議そうに視線を上げる。
「あれ……私、いつの間にドレスに着替えたっけ……?」
目の前にある姿見に映っているヴィヴィは、オフホワイトの総レースのドレスを着ていた。
半袖で胸の下から三段テイアードの可憐なそれは、初めて目にするものだった。
「え? 自分で着替えたんじゃないのか?」
「ううん。記憶にない」
匠海の問いかけに、ヴィヴィは小さく頭を振る。金色の髪がさらさらと揺れる。
「まさか……朝比奈が、ぼうっとしているヴィヴィを、無理やり着替えさせた――?」
いつもは落ち着いたクリスの声音が徐々に棘を含んだものに変わって、傍に控えていた朝比奈に剣呑な視線をやる。
「い、いえ。滅相もありません――。お嬢様がご自分で着替えてくださらないので、メイド達に着付けさせました」
銀縁眼鏡のブリッジを指でずり上げながら、朝比奈がそう弁解すると兄達はほっと息を吐いた。
朝比奈に疑いの目を向けさせる原因を作ったヴィヴィが「ごめんね?」と申し訳なさそうに眉をハの字にして執事に謝る。
「それにしても、可愛いね――。シルエットがすっきりしているから、いつものドレスより洗練されていていいね」
と匠海がヴィヴィの全身をしげしげと見つめながら、右側から賞賛してくれる。
「花冠も、天使みたいで、可愛い……」
と今度はクリスが左側から褒めてくれる。
背中の中ほどまである長い金髪はゆったりと巻かれ、小さな頭にはオフホワイトの薔薇で作られた清楚な花冠が乗せられていた。
「ほんと……? 子供っぽくない?」
兄二人に褒められて先程までの自己嫌悪など頭の片隅に消えてしまったヴィヴィは、二人に聞き直す。
「可愛いよ」
「綺麗だよ」