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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章
「お前は本当に、身も心もすべて可愛いよ、ヴィクトリア……」
「ありがとう。お兄ちゃんはなんかもう、全てがカッコいいよ」
そうバカップルみたいな事を囁き合う恥ずかしい2人は、互いににっこり微笑んだ。
「ほら、飲みなさい」
テーブルの上に置きっぱなしだった紅茶の入ったマグカップを手渡され、両手でそれを包み込んだヴィヴィが、こくりと小さな音を立てて嚥下する。
「ん……、美味しい」
「ふ……。なんかこうして抱っこして、腕の中で紅茶飲ませてると、ヴィクトリアは本当にお人形さんみたいだな?」
ヴィヴィの耳元に高い鼻を埋めてそう囁く兄に、ヴィヴィはこくりと頷く。
「うん。ヴィヴィ、お兄ちゃんのお人形さんなの」
「はは。じゃあ、ずっと手放したくないな。会社にも出張にも、連れて行きたくなる」
そう冗談ぽく発した匠海に対し、ヴィヴィは真っ直ぐに兄を見上げ囁いた。
「ん。連れて行って?」
「馬鹿。そう可愛い事を言われると、夜まで我慢出来なくなる」
「うふふ」
苦笑した匠海にマグカップを取り上げられ、ヴィヴィは兄の胸に顔を埋めた。
柔らかく抱きしめてくれる兄の腕にほっとする。
ここが本当の自分の居場所なのだと実感する。
そう、自分はここで可愛らしく笑っていればいい。
兄の香りを感じながら、
その暖かさを感じながら、
言葉を紡ぎ出す度に動く、兄の男らしい喉仏を見つめながら、
時に兄の心臓の音に耳を寄せ、自分も生きているという事を思い出せれば、
もうこれ以上幸せなことは、自分にとっては無いのだから――。
「おにいちゃん……」
自分は自分の発するこの甘い声が好きだ。
何故なら、兄が心底嬉しそうに自分を覗き込んでくれるから。
「ん?」
ほら、やっぱり優しく聞き返してくれるの。
「好き」
そう、この言葉も好きだ。
兄が幸せそうに笑ってくれるから。
「可愛いよ、ヴィクトリア」
そう言葉にして、愛でてくれるから。
ヴィヴィの灰色の瞳がうっとりと細められる。
ずっと、こうして。
ずっと、このまま。
ずっと、ずっと、ずうっと――。