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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章          

 ふにゃりと腕の中で弛緩しているヴィヴィを、匠海が抱き締め直し、その形のいい唇を開く。

「俺にだけに甘えん坊なヴィクトリアが、好きだよ」

「うん」

「皆の期待に応えようと努力する、頑張り屋さんのヴィクトリアが、好きだよ」

「うん」

「お前が笑うと周りの皆も笑顔になる……。人一倍サービス精神が旺盛で、自然と周りに気を配れるヴィクトリアが、好きだよ」

「うん」

 静かに兄の言葉に耳を傾け、従順に頷くヴィヴィを、匠海が抱擁を解いてその顔を覗き込む。

「ヴィクトリア……、お前の全てが好きだ……。すぐ膨れるところも、拗ねてしまうところも、意外と泣き虫なところも、でもすぐ機嫌が直ってにっこりする現金なところも……。全部愛らしくて、本当に大好きだよ」

 真っ直ぐに妹の瞳を覗き込みながらそう「ヴィクトリアが好きだ」と連呼する匠海。

 そしてその兄の灰色の瞳を真っ直ぐに見つめ返すヴィヴィは、にっこりと微笑んで唇を開いた。

「そう。ヴィヴィも、お兄ちゃん、好きよ?」

 そう兄に囁く声も心底可愛らしい。 

 「可愛い」と愛でる言葉が「好きだ」に変わっただけ。

 ヴィヴィはただただ、兄が求めるように微笑みを浮かべる。

 けれど目の前の匠海は、何故か苦しそうな表情を浮かべていて……。

 どうしたの、お兄ちゃん。

 どこか痛いの?

 どこか苦しいの?

 ヴィヴィ、直すこと、出来るかな?

「1年半前……、お前が泣きながら、ここで俺に告白してくれたね……。だから、俺もここで、自分の本当の気持ちを伝えたかったんだ」

 自分を見つめる兄の瞳が震えている。

 どうしよう。

 もしかしたら、ヴィヴィ、何かお兄ちゃんを苦しめるようなこと、しちゃったのかな?

 それともお兄ちゃん、何か病気になっちゃったのかな

 お兄ちゃんが死んじゃったら、どうしよう。

 お兄ちゃんが居なくなったら、ヴィヴィ、ここに存在する意味が無くなっちゃう。

 ヴィヴィは困ったように兄の瞳を覗き込み、しかしすぐにその中に答えを見出した。

 そっか、お兄ちゃんが居なくなったら、ヴィヴィも居なくなればいいんだ。

 そっか、解決して良かった。 

 本当はお兄ちゃんが病気で苦しむ姿は見たくないけれど、ヴィヴィも一緒に苦しむから。

 だからずっと、ずっと、ずうっと、一緒だよ――。

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