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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章
「ヴィクトリア……」
兄が自分を呼ぶ声がして、ヴィヴィははっと我に返った。
自分の思考に没頭し過ぎた。
自分は兄の人形なのに、まだまだ出来損ないだから。
真っ直ぐに兄を見つめ、ふわりと微笑んだヴィヴィに、匠海は次の言葉を発した。
「愛してる――」
「………………」
兄のその言葉に、ヴィヴィは馬鹿みたいに微笑みを浮かべ、ただじっと匠海を見つめていた。
「ヴィクトリア……? 聞いてる……?」
匠海のその問いに、自分は返答を求められていたのかと察したヴィヴィは、微笑みを湛えたまま唇を開く。
「誰を?」
兄が誰かを愛しているらしい。
でも、一体、誰を――?
「お前、に決まってるだろう……」
困った様にそう返してくる兄に、ヴィヴィは内心首を捻る。
お前って、誰だっだかな?
お前は、自分か。
お兄ちゃんは、お前を愛しているんだ。
つまり、自分を愛しているんだ。
「ふうん」
ヴィヴィの反応はたったそれだけだった。
「好きだ」も「愛してる」も大差ない。
自分を愛でる言葉だから。
けれど匠海はまるで自分の感情が溢れて止まらないといった風に、言葉を重ねてくる。
「ヴィクトリア、お前を心から愛してる……っ ヴィクトリアを女性として、愛しているんだ」
何で同じ言葉を兄は繰り返すのだろう。
自分を愛しているという言葉は先程も言ったのに。
ああ、2つ目には違う言葉が付いていた。
自分を“女性として”愛している、と。
“女性として”って、どういう意味だったかな――?
ヴィヴィはそこまで考えて、もう思考するのが面倒になった。
「そう。ヴィヴィ、なんかお腹空いちゃった。お菓子取ってこよう」
微笑みながら兄の股の間から立ち上がったヴィヴィは、脚に掛けていたブランケットを畳み始めたが、その腕を匠海が掴んだ。
「ヴィクトリア……? 俺、一応、告白してるんだけど?」
兄が当惑の表情で自分を見上げてくる。
ヴィヴィは内心困りながらも微笑みを湛えることだけは忘れなかった。
告白って、何を?
罪を?
秘密を?
いや、愛を、か。
先程から兄は、「愛している」という言葉を何度も使っている。