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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章          

「告白……? 誰に?」

 弧を描いた薄い唇が発したのは、まるで押し問答の様な、話の振り出しに戻る言葉。

「だから、お前に……。…………、ヴィクトリア……?」

 兄の当惑の表情がそれを通り越し、不安を含んだものに変化していく。

 どうやら兄は、自分の返事が気に食わないらしい。

 機嫌を損ねる前に、兄の気に入る返事を返さなければ。

 ヴィヴィはもう一度思考する。
 
 兄は自分が「好き」。

 兄は自分を「愛している」。

 詳しく言えば、兄は自分を“女として”「愛している」。

 それに対して兄の人形の自分が返すべき言葉は――?

 「ヴィヴィも、お兄ちゃんを“男として”愛している」

 たぶんそれで間違いない。

 ヴィヴィはその言葉を口にしようと唇を開いた。

 だがその瞬間、ぐうと胸が締め付けられた。

「―――っ」

 昨夜、燃え尽きた筈の心が、阿鼻叫喚し、薄い胸の中で荒れ狂う。

 嫌だ。

 嫌だ。

 嫌だ。

 絶対にその言葉を、今、口にはしたくない。

 自分は兄の“人形”だ。

 だからこそ、今、絶対に兄にその言葉を囁きたくなどない。

 例え兄の機嫌を損ねて、酷く抱かれたり、捨てて帰られたりしようが、絶対に口にしたくなどはない。

 薄く開かれたままだったヴィヴィの唇から洩れたのは、人形としては本来あってはならない、否定の言葉。

「お兄ちゃん、やめよう? 他のお話し、しよう? それとも、もう、えっちしたくなったのかな」

 微笑みを湛えたままそう囁いたヴィヴィは、先ほどまで自分が腰を下ろしていた兄の両脚に掌を添え、ウッドデッキの上に跪いた。

 そしてその細い片腕が伸ばされたのは、兄の脚の付け根。

 いつも熱い昂ぶりで、ヴィヴィを可愛がってくれる場所。

「まだ立ってないね? ヴィヴィ、手で大きくしてもいいかな? それとも小さいけれど、お胸にする?」

 ヴィヴィは微笑みの裏で残念に思う。

 兄はまだ自分に、口で奉仕することを許してくれない。

 一度だけしたことのあるその行為を、ヴィヴィは今、とてもしたかった。

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