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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章          

「……違う……、ヴィクトリアっ それは――」

 自分の発した言葉を妹が完全に誤って捉えていたと、今になって悟った兄は、きちんと言葉で説明しようとしたが、ヴィヴィがやんわりとその言葉を遮った。

「ヴィヴィはお兄ちゃんの“人形”だから。ずっと傍にいるし、何をされてもずっとお兄ちゃんが好きよ?」

 にっこりと先程から同じ様な笑みばかりを、その小さな顔に張り付けているヴィヴィは、更に続ける。

「でも、飽きたら捨てていいよ。要らなくなったら捨てていいよ。そう……、誰かにあげちゃってもいいよ」

「ヴィクトリアっ やめろっ!」

 ヴィヴィのその自虐的にも聞こえる言葉に、匠海は耐えられないように叫んだ。

「お兄ちゃん……? どうしたの? ヴィヴィ、なんか怒られるようなこと、言ったかな……?」

 また怯えた表情を浮かべるヴィヴィに、匠海はその場に立ち尽くし、妹を見つめる事しか出来なくて。

「ヴィクトリア……」

 ヴィヴィは兄の傍に寄ると、その逞しい胸にそっと両手を置き、縋る様に匠海の顔を見上げた。

「ごめんなさい……、機嫌、なおして? ヴィヴィ馬鹿だから……、だから、お兄ちゃんを怒らせちゃうんだね……」

「お前は、馬鹿なんかじゃないよっ」

 妹の華奢な肩を掴みながら匠海は必死にそう説得するのに、目の前のヴィヴィの小さなヴィヴィの顔に浮かんだのは奇妙にも見えるほどの明るい表情。

「あっ! いいこと考えた! ヴィヴィ、喋るの止めるよ。口を利かなかったら、もうお兄ちゃんの機嫌を損ねちゃうようなこと、言わずに済むもんね!」

 そうだ、それがいい。

 口を利かなかったら、お兄ちゃんが聞きたくない事を言ってしまう恐れもない。

 そして、人形のヴィヴィが言いたくない事を言わされる事もない。

 第一、人形は喋ってはいけないのではないのか――?

 ヴィヴィは自分の思い付きに大満足し、早速それを実行に移そうと薄く開いていた唇を閉じようとした。

 しかし――、

「ちがうっ そうじゃない、違うんだっ!」

 目の前の匠海が、泣き出しそうな顔で自分を覗き込んでいて。

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