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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第93章          

「分かった。じゃあ、あの海で死んでくる。そっか、魂が無くなれば、ヴィヴィ、本当にお兄ちゃんだけの人形になれるもの……」

 そうか。

 そうか、死ねばよかったのか。

 思い起こせば、兄は自分の首を絞めて殺そうとしたではないか。

 あの後、そんなそぶりは無かったから、てっきり自分の手を汚してまで妹を殺す意味もないと、そう結論付けたのだと思っていたが。

 そうか、兄自身の手を汚さなくても、自分が死ねばよかったのか――。

 そして兄は、その事だけを自分に望んでいたのか。

 フィギュアの世界女王で、五輪の金メダリストで、まだ17歳の若さと色んなものに恵まれた自分。

 前途洋々のその自分が自ら命を絶てば、確実に世間で騒がれ、その死に至る理由は醜聞めいた騒ぎを巻き起こし、自分のアイデンティティーは穢され、地に落ちるだろう。

 そうか。

 兄を穢した代償として相応しいのは、死をもっての償いと、社会的制裁。

 兄は、自分にそんな事を望んでいたのか――。

「お前……、何言ってるんだ……っ!?」

 兄の困惑した声が遠くに聞こえる。

 なに偽善者ぶってるの。

 本当は今すぐ死んで欲しいくせに。

 その後の社会的制裁を、心の中では舌なめずりしながら待ち望んでいるくせに。

「離して……」

「離すわけないだろうっ!? 俺がお前に死んで欲しいなんて、何でそんな事を思うんだよっ!!」

 五月蠅い。

 この偽善者。

 変態。

 そうか、『近親相姦』に興奮すると言ったのも、それでヴィヴィが落ち込んで、自殺すればいいと思ったんだ。

 そうか、ごめんね?

 ただ胃を痛めただけで。

 だから、入院までした自分に、一言の謝罪の言葉もなかったのか。

「離して……」

 汚らわしい。

 自分に触れないで。

 今から考えると、信じられない。

 なんで自分は、こんな男にずっと躰を赦し、捨てられまいと縋り付いていたのか。

「俺はヴィクトリアを愛してるんだっ お前に死なれたら、俺は生きていけないよっ! 頼む……っ」

 この大嘘吐き。

 そんな三文芝居に騙されるわけないでしょう?

 こんな自分にしたのは、全部、兄なのに!

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