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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
「その説得、上手くいく確率、どれくらい――?」
母のその問いに、背の高い玄関扉に背を預けた匠海は、両腕を組み息を吐いた。
「……かなり、厳しいね……」
「そう……。喧嘩でもしたの?」
困ったように笑うジュリアンに、匠海は小さく首を振って否定する。
「……今回の事は、一方的に俺に非がある。とにかく解って貰えるまで、謝り続けるよ……」
「はあぁぁぁ~~……っ グランプリシリーズ欠場したら、ペナルティーあるのよね~」
盛大な溜息を洩らしたジュリアンはそう呟きながら、玄関ホールに据え置かれたソファーの背に腰を預けた。
「え……?」
匠海のその驚きを含んだ呟きに、ジュリアンが肩を上げてみせる。
「昨年からISUの規約が、変更されたんだけどね……。ほら、GPシリーズって、前年の世界ランク上位者等しかエントリー資格がなくて、しかも各試合最大10名/競技 迄しか出場出来ないでしょう? 怪我や不測の事態以外で勝手に欠場されたら大会運営出来ないの。だから大会前1ヶ月切ってから欠場を申し出た選手には、ISUからペナルティーが科されることになったのよ」
母が説明した通り、双子はGPシリーズへのアサインを決めた時、ISUの“出場を約束する誓約書”にサインしていた。
怪我でも身内の不幸等でも無く、「興味が無くなった」という理由で欠場すれば、確実に誓約違反となる。
「ペナルティーって、具体的には?」
心配そうにそう尋ねてくる匠海に、ジュリアンは首を傾ける。
「ん゛~~、規約が変更されてからの前例は、まだないんだけどね。恐らく、来年のGPシリーズの出場権の剥奪――」
「来年は、五輪の出場枠を賭けた、世界選手権も控えてるのに……」
そう続けたクリスに、両腕を解いた匠海は、2人に対し深く頭を下げた。
「本当に、申し訳ない……」
「ふ……っ 匠海はそう言うけど、どうせヴィヴィにも非はあるんでしょう? あの子、本当に向こう見ずで我が儘大王だからねえ~。ま、取り敢えず匠海は、死に物狂いでヴィヴィを説得してっ! いいわね――?」
ジュリアンは匠海にびしっと人差し指を向けると、そう命令した。