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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
「ああ。勿論だよ」
息子の返事に満足そうに頷いたジュリアンはスマホを手に取ると、どこかへ電話を掛けながら元来たリビングへと戻って行った。
玄関ホールに残された匠海、クリス、そして控えていた朝比奈の間には、何とも言えない陰鬱な空気が流れていた。
9月28日(月)。
早朝5時。
ヴィヴィの寝室に響いた小さなノック音で、その部屋の主は目を覚ました。
何故かベッドの足側から上半身だけ羽毛布団の中に突っ込み、腰から下はベッドの外に出て、床に膝を付いた状態で。
「………………」
頭隠して尻隠さず状態のヴィヴィは、ぼ~っとする頭のまま、ベッドの足元にずるずるとしゃがみ込んだ。
「お嬢様。起きていらっしゃいますか?」
「………………」
黙って来訪者をやり過ごそうとしたヴィヴィだったが、この屋敷ではそんな事は不可能で。
「失礼致します」
そう断りの文句と共に寝室の扉を開いた朝比奈は、何故かベッドの下にへたり込んでいる主にぎょっとする。
金色のおさげはもうぼさぼさで、服も昨日のままだった。
「お嬢様? どこか具合でもお悪いのですか?」
心配そうに声を掛けながら傍まで寄った朝比奈に、ヴィヴィは背を向けたまま発した。
「ヴィヴィ、学校休む」
ぼそりと呟いたその言葉は、もうリンクに行くかどうかすら言及することも無い。
「お嬢様……」
気遣わしげな朝比奈の呼び掛けに、ベッドに両手を掛けたヴィヴィは、またその中に潜り込んで行く。
「寝るから出て行って」
羽毛布団の奥から指示したその命令に、「畏まりました」という静かな声が返って来た頃には、ヴィヴィはもう深い眠りに落ちていた。
それから1時間後の6時。
昨夜9時過ぎから寝て約9時間睡眠してしまったヴィヴィは、目が冴えまくっていた。
うつ伏せの状態から、ごろんと仰向けに身を横たえる。
ぼうと高い天井を見るともなしに見ていたヴィヴィの、その高い鼻が、微かに潮の匂いを感じ取った。
よく考えれば、昨日昼前に兄に抱かれ風呂を共にして以降、湯を使っていない。
葉山の海の匂い――。
自分が兄に告白した海の匂い。
兄が自分に告白した海の匂い。