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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章            

「………………」

 緩慢に開けられていたヴィヴィの目蓋が、ぐっと閉じられる。

 どちらの海の記憶も、今のヴィヴィには辛く苦しい思い出しか呼び起さない。

 ばっと飛び起きたヴィヴィは、その足で寝室を出、バスルームへと向かった。

 バスルームに入りバスタブに湯を溜めようとしたヴィヴィは、白いそこに既に暖かな湯が張られている事を確認し、ふぅと鼻から息を吐いた。

 朝比奈は本当に人を良く見ている、よく出来た執事だ。

 常日頃の主の睡眠時間や、その行動傾向から類推し、自分がもうすぐ湯を使うと予測したらしい。

 ヴィヴィは昨日から着っぱなしの服を脱ごうとし、ふとその手を止めた。

 金色の小さな頭の中に蘇ったのは、昨日の記憶。

 首元に結った細く黒いリボンを巻き付けながらゆっくりと解く、長い指先。

 白いシャツの胸元を這い回る、大きな掌。

 スタンドフリルの首元に埋められた高い鼻梁、這わされた熱く滑った舌。

 そして、熱く滾った欲望を押し付けられた、ライトグレーのショートパンツの中心。

「……――っ」

 気持ち悪い。

 きもちわるい。

 キモチワルイ。

 ヴィヴィは躰から剥ぎ取るように手早く服を脱ぎ捨てると、バスタブに飛び込んだ。

 水面に大きな波を立たせながら、頭の先まで湯に浸かる。

 忘れたいのに、記憶から抹消してしまいたいのに、残酷にも蘇る記憶の欠片。

 白いショーツの端を咥え、にっと悪そうに嗤ったその大き目の唇。

 小さな乳房を包む白いブラを両手で下から持ち上げ、その谷間に嬉しそうに頬ずりする張りのある頬、長い睫毛の感触。

 そして、自分の隘路を何度も我が物顔で往復する長い指と、逞し過ぎる昂ぶり。

「……~~っ」

 忘れたい。

 身体の汚れが洗い流せるように、頭の中の汚れた記憶も全て洗い流してしまいたい。

 けれど、そんな事など出来る筈も無く。

 ちゃぷりと静かな音を立て、頭の先から唇の下まで水面に浮かび上がったヴィヴィの、その唇からは嗚咽が漏れ始めた。

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