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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
濡れた前髪から伝い落ちる湯よりも熱い涙が頬を伝い、水面へと落ちていく。
そうして静かに涙を流しながら、ヴィヴィは自分の混乱を極めた感情と向き合おうとしたが、年末年始から9ヶ月も溜め込んだ負の感情の整理は、そんなに簡単に行く筈もなく――。
ぐずぐずと無駄に泣き続けたヴィヴィは、結局1時間もそこにいてのぼせて上がった。
白いバスローブを纏い髪を乾かそうとしたヴィヴィは、咽喉の渇きを覚えてリビングへと通じる扉を開き、硬直した。
広いリビングの中央に据え置かれた白皮のソファーに座る人物が、現れた自分に気づいて立ち上がる。
ぎしりと鈍い音を立てながら口を開いたのは、ライトグレーのスーツに身を包んだ匠海。
「ヴィクトリア……、おはよう」
「………………」
ヴィヴィは直視してしまっていた匠海の瞳から、さっと視線を落とす。
「学校、休むらしいね。具合が悪い訳ではないんだな?」
「………………」
その問い掛けに、ヴィヴィはむっとした。
同じ状況で自分は会社に行くのに、お前は学校をさぼるのかと、遠回しに責められている様に感じて。
「ヴィクトリア……。昨日は――」
匠海の言葉を振り切るようにリビングの隅にある小さな冷蔵庫まで歩いたヴィヴィは、そこからミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、また来た道を戻りバスルームの扉を閉めた。
静かに閉じた扉に、ヴィヴィはぐったりと凭れ掛かる。
今一番会いたくない人物と、顔を会わせてしまうこの環境を呪う。
今一番会いたくない――いいや、もう一生顔も見たくない。
ペットボトルを持った手をだらんと下げたままそこに佇んでいたヴィヴィは、背中に感じたノック音に飛び上がり、ペットボトルを床に落としてしまった。
「ヴィクトリア……、頼む。昨日のこと、説明させて欲しいんだ」
「………………」
「……ヴィクトリア。スケートも学校も休んでいい……。でも食事はきちんとしてくれ。いいね?」
ヴィヴィはもうこれ以上聞きたくないと、ドライヤーのコードを差し込み、髪を乾かし始めた。