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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
逆にクリスだったら、居た堪れなくて会いたくない。
自分の我が儘で、一方的に大切な約束を反古した自分は、双子の兄に合わせる顔が無い。
理由を求められても、説明出来ないし。
でも、父なら――。
子煩悩で自分に心底甘い父になら、会ってもいい。
英国で倒れて入院した娘に「スケートをするのが苦痛になったのなら、辞めればいい」と言ってくれた父。
最低だとは分かっているが、今はその言葉に縋り付きたい――甘えたかった。
「…………いい、よ」
小さな声でそう返事したヴィヴィに、朝比奈は頷く。
「畏まりました。どうぞお着替えになって、ソファーでお待ちになっていて下さい」
そう言い置いてリビングを後にした朝比奈に、ヴィヴィはウォーキングクローゼットへ入ると、白いバスローブを脱いだ。
五分袖の白シャツの上から、胸上と腰に大きなボタンの付いたジャンパースカートを纏うと、クローゼットから出た。
「やあ、おはよう、ヴィヴィ! ほうら、餌付けに来たぞ~っ」
開口一番嬉しそうにそう言いながら入ってきた父に、ヴィヴィは呆気に取られる。
「…………へ?」
(え、餌付け……?)
不思議そうに首を傾げた娘の前のテーブルに、父がサンドウィッチの乗った皿を置いた。
「ほら、食べなさい。お前、昨日のランチ以降、何も口にしていないんだって?」
隣に腰かけた父が、卵サンドを摘まみ、ヴィヴィの薄い唇の前に持って行く。
けれど娘は小さく首を振って口を開いた。
「…………食欲ない、の」
「え~~。雛に餌を与えるのは、親鳥の特権じゃないか~」
父が眉をハの字にしてそう拗ねる。
いつの間に自分達は鳥になったんだ……と心の中で突っ込みながら、ヴィヴィは小さく嘆息した。
「ヴィヴィ?」
「………………」
父は隣でしょぼくれた顔をした娘を見て、苦笑する。
「ふっ なんて顔して。まあ、それも可愛いけれど」
匠海に似た大きな掌で頭を撫でなでされるその下で、ヴィヴィはさらにしょぼんとする。
「……可愛くないもん」