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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
父はしばらくヴィヴィを甘やかせていたが、いつになってもサンドウィッチを口にしようとしない娘ににやっと嗤う。
「ほら、食べてくれないと、ダッド、会社休んじゃうぞ~?」
「えっ!? な、なんでそうなるの……?」
ヴィヴィは父の言葉に焦る。
家では子煩悩で子供達にベタ甘の父だが、一歩外に出れば一目も十目も置かれている、カリスマ経営者。
平日は帰りが遅く、土日もどちらかは仕事関係で家に居られない父。
そんな父がどれほど忙しい日々を送り、彼がいないと決断出来ない事柄が幾多もあるという事は、世間知らずのヴィヴィでも容易に想像がついた。
「ヴィヴィがその小っちゃな唇で、小動物のようにサンドウィッチを頬張るのを見ないと、安心して仕事出来ないからね」
「………………」
(お、脅しですか……っ)
顎を梅干し状態にして「食べたくない」と全身で主張する娘に、父は更に続ける。
「それとも、会社に連れて行っちゃおうかな? ヴィヴィ、可愛いって凄く人気だから、社員達に取り囲まれてお菓子攻めにされるだろうねえ?」
「………………」
(や、やっぱり、脅しだ……)
てっきり甘やかしてくれると思っていた父のその言動に、ヴィヴィは「ちえっ」と思いながら可愛く睨んだ。
「ほら、あ~ん」
楽しそうに娘の唇にサンドウィッチをつんつんくっ付けてくる父に、ヴィヴィはしょうがなく薄い唇を開く。
「あ、あ~ん……」
父の手から齧ったサンドウィッチを受け取り、もそもそと食べ始めたヴィヴィは「やっぱり料理長が作るものは何でも美味しい……」と思う。
卵サンドを食べ終わったヴィヴィに、次にBLTサンドを「あ~ん」と言いながら食べさせた父は、不服そうながらも黙々と食べる娘を嬉しそうに見下ろしていた。
「あれ、頬袋、無かったっけ?」
ぷにぷにと指先で娘の丸みの残る頬を突きながら、そう尋ねてくる父に、
「鳥の次は、リスですか……」
とヴィヴィは胡乱な瞳で突っ込んでおいた。
結局お皿の8割を食べたヴィヴィに満足そうに微笑んだ父は、朝比奈が淹れた紅茶を啜ると、改まって口を開いた。
「ヴィヴィ。少しいいかい?」
「うん……」
改まって自分に向かい合う父に、ヴィヴィはナプキンで口元を拭うと静かに頷く。