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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章            

「ジュリアンが心配しているよ。もちろん、匠海もクリスもね」

「………………」

 父の言葉にヴィヴィは俯く。

 自分だってそれくらい分かっている、気付いている。

 けれど今の自分にさえ冷静に向き合えないヴィヴィには、周囲といつも通りに向き合うのは無理だった。

「前にも言った通り、ヴィヴィがやりたくないなら辞めてしまえばいいよ」

「……うん……」

 やはり父は自分に甘い。 

 そうと分かっていて面会を了承したヴィヴィは、ほっとして頷いた。

 ゆっくりと視線を上げたヴィヴィを待っていたかのように、父は視線を合わせて続ける。

「ただ、けじめはつけなさい」

「……え……?」

(けじめ……?)

「お前がグランプリシリーズを18日前になって欠場すると言って、悔しく思うのは誰だろう?」

「悔しく……?」

 ヴィヴィは不思議そうに父を見返す。

 迷惑に思う人は大勢いるだろうが、自分が欠場して悔しく思う人物がいるだろうか?

 逆に喜びそうな人物の方が多い気がする。

 図らずも自分は、ここ最近出る試合の全てで頂点に立っている。

 自分が欠場したら、いつも2位や3位で辛酸を舐めている選手にとってはチャンスだろう。

「ああ……」

 父の優しい相槌に、ヴィヴィは心の中で首を傾げる。

 確かにNHK杯を現地で観戦する予定の観客にとっては、自分の演技を楽しみにされているファンが、悔しくは感じるかもしれない。

 ヴィヴィはしばらく黙りこんで考えていたが、やっと父の言いたい事が分かり、恐るおそる薄い唇を開いた。

「……GPシリーズの出場資格を、与えられなかった選手……?」

 娘のその答えに、父は鷹揚に頷く。

「そうだね。ヴィヴィが1ヶ月以上前に欠場を表明していたら、他の選手が派遣されていただろうね。そしてその選手にとっては、きっとそれはかけがえの無いチャンスになった筈だ」

「………………」

 思いがけない父の厳しい言葉に――けれど正論に、ヴィヴィは何とも言えない気持ちになる。

 確かに父の言う通りで、自分のせいで前途ある選手のチャンスを握り潰した事になるだろう。

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