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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
「そして賢いお前のことだ。今回の自分の行動で、どれだけの人間や企業に迷惑が掛かるかは、言われなくても解っているだろう?」
「……うん……」
大会主催者、後援者、スポンサー、スケ連、放映権を持つテレビ局、その他、自分ではきっと想像付かないほどの企業や団体、人間に迷惑を掛ける事になるだろう。
それはヴィヴィだって分かっている。
分かっているが、そうじゃなくて――。
ヴィヴィは拗ねた様に自分の膝小僧を睨み付けていた。
小さな頃から、相手の話を聞く時はきちんと相手の目を見て聞きなさい、そう口を酸っぱくして躾けられてきたにも関わらず。
「もう本当に、どうにもならなくて欠場するなら、そして引退するなら、ちゃんとけじめをつけなさい」
「………………」
視線を合わせようとしない娘の手を取って両手で包み込んだ父は、そう噛んで含める様にヴィヴィに諭したが、当の本人はかなりむくれていた。
(ダッドにまで、こんなこと言われるなんて、思わなかった……)
「お前はまだ17歳で子供だけど、フィギュアの世界では子供じゃいられない。大人の世界で戦って活躍し、注目され、応援されてるんだよ」
父のその正論は、もうヴィヴィの心には届いていなかった。
そんな事、ヘッドコーチである母からまた言われるだろうに――それもきっと、頭ごなしに。
(会うんじゃなかった……、ダッドにも……)
「解った。ちゃんとどうするか、考える」
ヴィヴィはかなり不貞腐れてそう答えた。
心の中にはそんな事を考える余裕すらないが、そう“良い子の答え”をしないと父から解放されない気がしたのだ。
「いい子だ。ああでも――」
そう言いながらヴィヴィの少し膨れた頬に両手を添えた父は、娘に上を向かせて覗き込んでくる。
「拗ねてるヴィヴィって、本当に可愛いなあ~♡ やっぱり頬袋あるし。本当はダットのエゴだけで言えば、お前はずう~~っと拗ねててもいいんだよ? たまに愛らしくにっこりしてくれるだけで、ダッドは幸せだから」
そう言って満面の笑みを浮かべた父は、いつも通り子煩悩でべた甘だった。