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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章            

「……お、親バカ過ぎる……」

 父の両掌の中でそうぼそりと呟いた娘に、グレコリーはにやっと嗤う。

「親というものは、バカな生き物なんだよ」

「ふうん……。ダッド……」

「ん?」

「ぎゅ、して……?」

 そう甘えた声を発したヴィヴィの薄紅色の唇は、幼少の頃と変わらず、つんと尖っていた。

「ああっ! なんて可愛い娘なんだろうね、お前は……っ!!」

 広いスーツの胸にひしと抱き締められたヴィヴィは、その暖かさと逞しさにほっとした。

 そう、今のヴィヴィは誰かに甘えたかった。

 辛かったね。

 悲しかったね。

 一人でよく頑張ったね。

 ちょっとゆっくりしていいよ。

 それからじっくり時間を掛けて考えればいいんだから。
 
 そんな優しい言葉を掛けて、甘やかして欲しかっただけなのに。

「ヴィヴィ……」

「うん?」

「本当はこんな事、言いたくなんか無いんだよ。でも父親として、お前の為を思って言っている。分かってくれるかい?」

 娘を優しく抱き締めながらそう囁く父のその本音に、ヴィヴィの心がずきんと痛んだ。

 そう、父は本当に娘の自分の事を考えて、心を鬼にして言いたくも無い事を言ってくれたのだ。

 「お前の好きにしていいよ、後はダッドが何とかしておくからね」とヴィヴィを甘やかす事だって出来たのに、敢えてそうしなかったのは、父の心からの思いやりなのだ。

 人間として成長して欲しい。

 自分の言動に責任の取れる大人になって欲しい。

 父のその希望を、今になってやっとヴィヴィは理解した。

「……うん。ごめんなさい……」

 ヴィヴィは今度こそ素直に謝った。

(本当ならこんな事、ダッドに言わせる事なんて無かっただろうに……。ヴィヴィの自業自得でこうなったのに……。本当に、ごめんなさい……)

「いい子いい子」

 父は娘の頭を優しく撫でながら、ヴィヴィが「もういい」と言うまでずっと抱き締めてくれていた。

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