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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
ヴィヴィはぼすりと音を立て、ソファーに上半身を突っ伏した。
自分はどうしてもNHK杯と、その5日後にある中国杯に出場しないとならないのだろうか。
どんな結果になろうとも、確かに出場さえすれば誰にも文句は言われないだろうが。
(でもヴィヴィ、滑れるかな……、今のこんな状況で……)
リンクに行く気も湧かない。
滑りたいとも思わない。
確かにプログラムは完成し、各エレメンツも上々の仕上がりだが、心が着いて行かない今、きっと自分の滑りは本当に “感情のない人形そのもの” だろう。
ヴィヴィの薄い唇から、深い溜め息が零れ落ちる。
頭の中がぐちゃぐちゃなのに、やはり脳みそが活動する事を嫌がっている。
また思考を放棄したヴィヴィは、ゆっくりと目蓋を閉じた。
何も考えたくない。
何もしたくない。
今は1人で、砕け散った筈の自分の殻に、静かに閉じ籠っていたい。
兄が居ないこの時間に、屋敷でゆっくりして過ごしたい。
ヴィヴィの意識が少しずつ、眠りに就いていく。
しかしその頭の隅で、ヴィヴィは1つの疑問をふと感じた。
(っていうか、ヴィヴィ……。なんでスケート、辞めなきゃいけないんだろう……)
けれどその疑問はそれ以上回答へと導かれる事も無く、その意識はそこで途切れた。
「お嬢様……。こんな所に隠れていらっしゃったのですね……」
そうぐったりした朝比奈の声で、ヴィヴィは目を覚ました。
「…………ふぇ?」
ヴィヴィは起き抜けに間抜けな声を上げる。
隠れていた?
確かにそう言った朝比奈の言葉の意味が分からない。
自分はライブラリーのソファーで寝ていただけなのに。
「屋敷中、皆で手分けして探したのですよ? もしや外に出られたのではと、家令が真っ青になっておりました」
「…………はあ」
何でそんな大事になっているのか分からないヴィヴィは、そう呆気に取られた声を発した。
「まあ、いらっしゃって良かったです。もう13時前ですが、ランチは食べられますか?」
「…………いらない」
何でか分からないが、空腹というものを感じないのだ。
身体を動かしていないからだろうか。
いつもなら学校でランチの30分前には「お腹空いた~」と連呼するくらいなのに。