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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
ヴィヴィはその足で防音室へと移動した。
時間はたっぷりあるので、なかなか長時間は触れていなかった楽器を、思う存分演奏してやろうと思ったのだ。
2時間ぶっ続けでヴァイオリンを弾いていたヴィヴィに、さすがに心配した朝比奈が紅茶を淹れて進めてくれた。
ソファーに座り、白磁のティカーップが燻らす白い湯気に、引き寄せられるように口を付ける。
そして目の前に饗された茶菓子へと、ヴィヴィの瞳が吸い寄せられて止まった。
可愛らしいサイズのガレットにマドレーヌ、カスタードたっぷりのイチゴのタルト。
ガレットは実はヴィヴィの大好物だったりする。
バターをたっぷり使ったそれは、サクサクとした歯触りと濃厚な味が、ミルクティーと良く合う。
「………………」
ヴィヴィは五分袖の白シャツから露出した腕を伸ばし、お皿の隅に置かれていた小さなクッキーを摘まんだ。
大塚薬品工業の栄養士が考案してくれた、低カロリーのクッキー。
食べなれたその滋味深い味わいにほっとしながら、また紅茶を飲み下す。
ヴィヴィの現在の体脂肪率は7%。
身長の成長が止まり、それまでの様に好きなものを好きなだけ食べる食生活とはいかなくなった。
栄養士の計算通りの食生活、柿田トレーナーの指示通りの体力作り・筋トレ。
それもこれも、今まで通りジャンプを跳べる体型を維持する為に――。
(もう、食べちゃっていいのに……。もう、太っちゃっていいのに……。なんでだろう、食べられない)
薄い唇からふぅと微かな溜め息が漏れたのと時を同じくし、ヴィヴィのスマートフォンが振動した。
手に取り確認したヴィヴィは、届いた動画付きメールを開く。
『HI! ヴィヴィっ 元気~?』
『こらっ 学校はサボってもいいけど、ダンスの練習は来いよ~!』
『あはは! 確かに』
『お~い。明日は来るよな? ラスト20秒のダンスが揃わないんだよ~。振付考え直そうぜ~?』
小さな画面に代わるがわる現れるのはクラスメイト達。
そしてそのメールの差出人は、カレンだった。
動画と共に添えられていた一文に、ヴィヴィは泣きそうになる。
『何があったか知らないけど、ヴィヴィいないとつまんないよ~っ
みんなでダンス、仕上げよう?
待ってるぞ~(^o^)丿』