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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
匠海による妹である自分への殺人未遂。
それを朝比奈が両親に報告したら、一体どうなるのだろうか。
当然、匠海は自分の正当性を主張するであろう――妹に強姦されたから、首を絞めたのだと。
もしかしたら、首を絞めたのは自分の仕業ではない、と主張するかもしれない。
証拠は何もないのだ、自分の主張以外は。
そして、両親はどう判断するだろうか。
起因を作った娘と、そうとはいえ、確実にやり過ぎた長男。
どちらを取るだろうか。
どちらも取る? それとも どちらも切り捨てる?
そこまで考えたヴィヴィは、その思考を止めた。
そんな事をして何の得があるのだ。
大切な両親とクリスを傷つけ、悲しませるだけの、互いのその罪の告白 もとい 暴露。
そんなものに何の価値がある?
自分は悪戯に周りを気づける結果を望んではいない。
何故なら、全ての起因を作ってしまったのは、紛れもなく自分自身なのだから――。
ヴィヴィは目の前の、立て膝の上に置かれた白手袋の手を取り、導いた――自分の首元へ。
そして、静かな声で囁いた。
「外して」
その短い命令に、朝比奈はすぐに従った。
白く細い喉元に、きっちりと止められた白シャツのボタン。
それを手袋に包まれた大きな手が、プチプチと外していく。
胸上のジャンバースカートの襟口までボタンを外した朝比奈は、シャツの襟を開き、主の首回りをつぶさに確認していた。
露わになる白い首筋と、その下の浮き出た細い鎖骨。
そんなところをじっと見つめられるなんて、兄以外では初めてで、ヴィヴィはさすがに恥ずかしくて微かに震えた。
「何もされていないし、何も言われていないわ」
朝比奈の眼鏡の奥の瞳を真っ直ぐに見据えながら、ヴィヴィはそう口にした。
「お嬢様、本当ですね――?」
その最終確認にも、ヴィヴィはしっかりと頷いた。
「うん。ただ、喧嘩しただけよ」
「分かりました」
主の言葉にそう短く答えた朝比奈は、またシャツのボタンを下から止めていく。
大人しくそれを受け入れながら、ヴィヴィはゆっくりと目蓋を閉じた。