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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章            

 分かっている。

 責任の所在は自分にある事は。

 けれど、どうしても許せない。

 理解出来ない。

 納得出来ない。

 信じられない。

 兄を、肉体的にも精神的にも、受け入れられない。

 自分をここまで追い込んだ上に愛を囁き、自分の全てを支配し、手中に収めようとしたその言動を。

 いや。

 手中に収めようとしたのだろうか。

 自分を穢した妹の自殺――本当にそれを望まれていてヴィヴィが実行に移せていたら、それも兄の手中にある、兄の思い通りになっていたということか。

「………………っ」

 ヴィヴィは目蓋を閉じたまま、ぐっと唇を歯で噛み締める。

(絶対に死んでなんかやるものか――。

 これ以上お兄ちゃんの思う通りになんか、させないんだからっ)







 その後、ピアノの練習を始めたヴィヴィだったが、それはすぐに中断させられた。

 学校からクリスが帰宅し、その足でヴィヴィの所に来たからだ。

「ヴィヴィ……。勉強の時間だよ……」

 制服を纏ったままのクリスが、防音室の戸口でそう妹に呼び掛ける。

「…………しない」

 そうぼそりと答えたヴィヴィは、またピアノを弾き始める。

 つかつかとその傍に寄って来たクリスは、片手を物凄い勢いで鍵盤の上に振り下ろした。

 防音室に響き渡る大音量の不協和音に、ヴィヴィの華奢な肩がびくりと震え上がる。

 わんわんとグランドピアノの中に反響するその残響が消えた頃、クリスは再度口を開く。

「じゃあリンクへ行く用意をしろ」

 その高圧的な命令口調に、ヴィヴィはかちんときた。

「行かない」

 短くそう答えたヴィヴィは、テコでも動くものかと両膝の上に拳を乗せて俯いた。

 けれどその細い顎は乱暴に掴まれ、ぐっとクリスへと向けられた。

「我が儘なヴィクトリアは可愛くて好きだけど、今回はちょっと、おいたが過ぎるね――?」

 自分そっくりのその顔は無表情なのに、灰色の瞳は怒りで燃えていた。

「……――っ」

 初めて見るそのクリスの表情に、ヴィヴィは恐怖で竦み上がった。

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