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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章            

「来るんだ」

 そう短く命令したクリスは、ヴィヴィの手首を掴むと引っ張って立ち上がらせ、防音室から連れて行こうとする。

「……や、やだっ!」

 ヴィヴィは咄嗟に抵抗した。

 クリスはこのまま自分をリンクへ連れて行こうとする筈。

 行きたくない。

 滑りたくない。

 いくらクリスにだって、そんな事を強要されたくない。

 そう思い掴まれた手首を振り解こうとするのだが、如何せん男と女では腕力に差があり過ぎて。

 ずるずると引き摺られる様に1階の廊下を歩かされたヴィヴィは、玄関ホールへと連れて行かれた。

「く、クリス様? 一体――?」

 通りかかった朝比奈が驚きの表情で、嫌がるヴィヴィを拘束するクリスに気付き、そう声を掛けてきた。

「ああ、朝比奈。ヴィヴィのウェアとスケート靴。今すぐ持ってきて」

「え? あ、畏まりました」

 クリスの指示に、朝比奈は駆け足で石造りの階段を上っていく。

「――っ!? だからヴィヴィは行かないってばっ!」

「五月蠅い――っ!」

 クリスのその大きな叫び声が、広い玄関ホールに響き渡る。

「……――っ」

 双子の兄の驚きの言動の数々に、ヴィヴィは灰色の瞳を真ん丸にして固まった。

(く、クリス……?)、

 一瞬にして大人しくなった妹をひょいと肩に担ぎ上げたクリスは、そのまま開け放たれた玄関扉を潜り、待たせたままにしていたらしいベンツの中へとヴィヴィを放り込んだ。

「……なっ!? なにす――」

 何するのっ! とクリスに食って掛かろうとしたヴィヴィに伸ばされた兄の両腕が、こしょこしょと妹の華奢な躰をこそばし始める。

「ひっ!? いっ いやぁあっ あ゛っ ひやぁああ~~っ!?」

 色気の無い声を上げながら必死に身を攀じるヴィヴィを、クリスは無表情のままわさわさとこそばし続け――。

 そしてぐったりしたヴィヴィを後部座席に乗せたベンツは、いつの間にか篠宮邸を出発していた。

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