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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
そして続けられるカウント。
「47、46、45……」
「ひ……っ!? ま、待ってっ き、着替えるからぁっ!」
ようやく自分の置かれた状況を把握したヴィヴィは、泣き出す寸前の情けない声でそう懇願した。
「いい子だね……。聞き分けの良いヴィヴィが、大好きだよ……」
結局しぶしぶ着替えさせられたヴィヴィは、暴れまくった甲斐も無く、またクリスに担がれてリンクアリーナへと運び込まれる。
廊下ですれ違った皆もそうだが、何故か制服姿のクリスに担がれて、
「降ろしてってばっ! クリスの馬鹿ぁっ」
と英語できゃいきゃい喚いているヴィヴィに、リンクメイトやコーチ陣、一般客、リンクのスタッフがぽかんと呆気に取られていた。
(んも~~っ!! なんでこんな目にっ!? ヴィヴィ、馬鹿みたいじゃないっ)
いつもなら双子は屋敷で勉強しているこの時間帯、メインリンクでは一般営業と、ノービスの生徒がレッスンを受けていた。
クリスが向かったのはその先のサブリンク。
ジュニアの生徒達が一生懸命練習に励んでいる、そのリンクサイドに降ろされたヴィヴィは、咄嗟に逃げを打ったが、直ぐにクリスに捕まえられた。
「ここまで来て、逃す訳ないでしょう……? ほら、スケート靴履いて」
腕を強く引かれ、乱暴に観客席に座らされたヴィヴィは、クリスを睨み上げた。
「嫌だってばっ ヴィヴィ、もう辞めるのっ! もう全部辞めるのっ!!」
そのヴィヴィの喚き声に、その場にいる皆がはっとこちらを振り返ったのが分かった。
だからと言ってどうってことない。
もう自分は辞めるのだから、もう誰に何と思われようが構わない。
頑固とも取れるほどそう頑なになったヴィヴィは、哀しそうに見下ろしてくるクリスからふいと視線を外した。
「でも、僕はヴィヴィと、滑りたい……」
上から降ってきたその静かな声に、ヴィヴィははっとするが、やはり拒んだ。
「……――っ 1人で滑ってっ」
(っていうか、シングル選手は1人で滑るじゃない。ヴィヴィいなくても、クリスには全く問題ないじゃない……っ)