この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
「嫌だよ……。1人、なんて……」
そうぼそりと呟くクリスと、無言のままのヴィヴィの間に割って入ってきたのは、母だった。
「何やってんのよ、あんた達……」
心底呆れた様子のジュリアンに、クリスがこそっと何かを耳打ちしたのを、視線を逸らしていたヴィヴィは気付かなかった。
「コーチ……。ヴィヴィはもうスケート辞めるって言ったのに、クリスが無理やり連れて……って、なっ 何ぃ~~っ!?」
いきなり後ろに回った母に羽交い絞めにされたヴィヴィは、訳が分からず目を白黒させる。
「コーチ、Good Job……。そのまま、押さえてて……」
「いいけれど……。クリス、荒療治ねえ……」
嘆息しながらも物凄い力で娘を締め上げる母に、ヴィヴィは「痛いっ 力込め過ぎっ!」と訴える。
「あら、悪い悪い。ごめんなさいねえ、いつも手の掛かる教え子相手に溜め込んでる鬱憤が、どうしても態度に出ちゃってねえ~?」
母と娘のその下らないやり取りを耳にしながら、クリスはヴィヴィの足にスケート靴を履かせ始めた。
「んな……っ!? く、クリス……嫌だってばっ」
あまりに強引すぎる双子の兄に、ヴィヴィはじたばたと下半身だけで抵抗しようとするが、自由な方の脚がクリスの顔の傍を霞めた事に真っ青になり、下半身も凍り付いた様に動かせなくなってしまった。
「頼むから、暴れないで……。一応僕、17日後には試合、出るんだから……」
クリスのその冷静な突っ込みに、ヴィヴィはぐっと押し黙る。
(だったらヴィヴィなんか放っておいて、練習に明け暮れてよっ)
「ほら、次、右足出して……」
そう言っても言う事を聞かない妹の細い右足首を掴んだクリスが、また手ずからスケート靴を履かせていく。
「クリス……、いや……っ」
「いや、じゃない……」
弱々しく否定の言葉を口にするヴィヴィを、クリスが静かに退ける。
そして全ての準備を終えた妹を母に抑え込ませたまま、手早く自分の準備を終えたクリスは、またヴィヴィを肩に担ぎ上げてサブリンクへと入って行った。
(こ、怖……っ って言うか、高いっ)
ヴィヴィは恐怖を感じ、自分をこんな目に合わせている張本人に、咄嗟に縋り付く。