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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
双子は昨年のTHE ICEの為にペアの練習をしたが、その時でさえこんなに高い位置でのリフトはしていなかった。
「やだ……っ 降してっ」
恐々そう叫んだヴィヴィを、クリスはリンクの端まで連れて行き降ろした。
「ほら……。滑らないと、向こうへ戻れないよ……」
そう、信じられない言葉と共に。
「……――っ クリスの鬼っ 悪魔っ! どSっ!!」
ヴィヴィは思いつく限りの酷い呼び名で揶揄する。
「別に、なんでもいいよ……。ヴィヴィとまた、滑られる様になるのなら……」
「………………」
全く堪えていない様子のクリスに、ヴィヴィは薄い唇をぐっと引き結んだ。
「ほら、一緒に滑ろう……?」
そう言って手を差し出すクリスに、ヴィヴィは両拳を身体の脇で握り込んだまま、ぷるぷると首を振る。
「……やだ……」
「手、繋ごう……」
「………………」
クリスの誘いを無視したヴィヴィを、双子の兄は強引に手を取って滑り始めた。
といっても強情なヴィヴィは、引かれるままで、自分では1ストロークもしなかったが。
「よく、こうやって滑ったね……。まだスケート、始めたばかりの頃……」
クリスがヴィヴィの手を引きながら、時折振り返ってそう話し掛けてくる。
「2人とも下手だから、どっちかが転ぶと、もう一人も転ぶのに……。なんかそれさえも面白くなって、ずっと手を繋いでた……」
そう昔の思い出を語るクリスの手を、ヴィヴィはやんわりと解いた。
「……ヴィヴィはもう、転んだままでいい……」
弱々しい声でそう呟いたヴィヴィは、氷の上にぺたんと座り込んだ。
何をされようと、どう言われようと、今のヴィヴィはスケートそのものを拒否していた。
そんな妹の傍に、クリスも制服に包まれた長い脚を折り畳み、三角座りをする。
「じゃあ僕は、それを傍で起き上がるまで、見てる……」
クリスのその信じられない言動に、ヴィヴィはぷいと顔を逸らせた。
数分ここで座り込んで抗議をしていれば、クリスは諦めてくれると思い、長期戦を覚悟した。
けれど威勢が良かったのは最初の2分ほどで、時間が経つにつれ、ヴィヴィもこの状況が苦しくなってきた。