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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第19章                    

 ジュリアンはそれ以降、黙りこんでしまった。

 確かに彼女はヴィヴィやクリスに「自分のやりたい曲があるなら言いなさい」と言いはしたが、まさかこんな変化球で来るとは思いもしなかったのであろう。

「僕はいいと思いますよ……確かにまだまだ改良の余地はあるけれど、何よりもこのFSは凄くヴィヴィの攻める気持ちが伝わってきます。ひょっとすると、このプログラムはヴィヴィの代名詞となるプログラムへと成長するかもしれない――」

 サブコーチのその発言に、ヴィヴィは心の中でぐっとガッツポーズをした。

 周りにいたトレーナーや他のコーチ達もそれぞれ「凄くいいプログラムだ」、「少女と大人の境目の危ういヴィヴィが、いい具合に表現されている」と称賛してくれた。

(マムは――?)

 ずっと無言で両腕を組んで考え込んでいるジュリアンに視線を移すと、彼女はまだ硬い表情をしていた。

 一分程皆の視線を集めながら熟考していたジュリアンだったが、おもむろに口を開いた。

「私はヴィヴィにはクラッシックバレエを演じてほしいわ……」

「………………っ」

 ジュリアンの言葉に、ヴィヴィは息をのんで見つめ返す。

「来シーズンだったらこのプログラムでもいいわ……でも今シーズンは『オリンピックシーズン』よ。皆が自分の得意なプログラムを引っ提げて参戦してくるの。その中で今のヴィヴィがサロメという難解な題材を取り上げるのは、賭けに近い――」

 ジュリアンはそこで言葉を区切ると、ヴィヴィを見据える。

「ここまで頑張って真剣にスケートと向き合ったのは認めるわ――けれどオリンピックでメダルを取りに行くためには『戦略』が必要なの……要するに『観客受け、ジャッジ受け』の良いものをしたほうが当然有利なのよ」

「…………で、でも――サロメは有名な悲劇です! 『受け』だってある程度は見込めると――」

 食い下がったヴィヴィに被せるように、ジュリアンがたたみかける。

「観客は『笑顔で優雅なヴィヴィ』を見たいと思っているの――これは寄せて頂いたファンレターから集計したデータなのだけれど……」

 ジュリアンがサブコーチから一枚の書類を受け取り、ヴィヴィへと手渡す。

 それにざっと目を通したヴィヴィの顔が徐々に険しくなる。

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