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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第19章                    

『剣の舞もシャコンヌも、迫真の演技でとっても素敵でした。今度は華やかで明るいプログラムも見てみたいな!』

『ヴィクトリアちゃんのクラシックバレエの演目も見てみたいです。眠れる森の美女やコッペリア、くるみ割り人形なんかをリクエストします』

「………………」

 ヴィヴィの視線が徐々に下へと落ちていく。

(確かに……それはファンレターを読んでいて、私も気になってはいた……一部の人の意見だけれど、そう思われていることは事実だし……けれど――)

「ヴィヴィ……サロメは来シーズンに回しなさい。今年はクラッシックバレエの中からジャンナに曲を選んでもらうわ――」

 ジュリアンはそう言い切って結論付けると、踵を返してリンクサイドから去って行った。

「ヴィヴィ……残念だけれど、ヘッドコーチの言うとおりにしよう……な……?」

 サブコーチはそう言ってヴィヴィの肩をポンと叩くと、次にリンクを使う予定だった成田・下城ペアに「アップして」と促す。

 リンクサイドに一人取り残されたヴィヴィはその場を暫く動けず、俯いて他の生徒達が氷を削る音をただ聞いていることしか出来なかった。




 
 昨日のことを思い出したヴィヴィの顔が曇る。

 自分達のバースデーパーティーのことさえも記憶の彼方へと追いやってしまった昨日の事柄で、ヴィヴィは数時間前までうんうんと唸りながら頭を痛めていたのだ。

「僕はヴィヴィのサロメ……好きだよ……?」

 クリスがそう言って花冠の乗ったヴィヴィの頭をポンポンと撫でる。

「クリス……」

 涙目で20センチ以上自分より高いクリスを見上げると、隣の匠海も頷いた。

「俺も。今のヴィヴィにはあのサロメがぴったりはまっていると思った……『ヴィヴィがそこまでして欲しているものは何だろう?』とまで考えてしまったよ。ただのプログラムの演目とは分かっているのに――。それだけ『ヴィヴィのサロメ』に引き込まれた」

(お兄ちゃん……)

「………………」

 匠海のその言葉に、ヴィヴィは『やはりサロメは受ける』と確信し、腹を決めた。

「ヴィヴィ、諦めない……。ロシアで絶対ジャンナを説得してみせる――!」

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