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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
「……やだよぉ……」
甘ったれた声でそう拒否し続けるヴィヴィに、クリスはとうとう強硬手段に出た。
ヴィヴィの左肩の後ろに手を添えると、その右手を取り滑り始めたのだ。
いきなりの事に驚いたヴィヴィは、咄嗟にクリスの右肩の上に手を添えた。
「ふ……。身体が覚えてる……」
静かにクリスに指摘され、ヴィヴィはむすっとした。
社交ダンスのホールドと同じそれは、アイスダンスのワルツポジション。
対面で息を合わせて滑るのがとても大変で、双子は何度も自主練を重ねたものだった。
「ほら、ちゃんと滑らないと、僕まで転んじゃう……」
そう妹を促したクリスは、ターンをして前と後ろを交代した。
バックに滑る事になったヴィヴィが、慌ててエッジを倒す。
「そう、いい子だね……」
妹を強引に滑らせながらも、そう優しく耳元で囁いたクリスに、ヴィヴィは息を呑んだ。
(なんで、ここまで、するの……? 別にクリスは、ヴィヴィがいなくても、ちゃんとやれるじゃない……。どっちかといえば、ヴィヴィ、クリスのお荷物みたいなものだし……)
何度もターンを繰り返し、速度を上げていくクリスに、ヴィヴィは有無を言わさず着いて行かされる。
「……クリス……、もう……」
しばらくして、ヴィヴィがそう終わりをせがんだその時、
「ねえ、ヴィヴィ。とっても楽しいね?」
「……――っ」
そう言ってにっこり微笑んで覗き込んできたクリスに、ヴィヴィは一瞬で心奪われた。
氷の上では表情豊かなクリスは、心底楽しそうに自分と滑っていて。
そして、他ならぬ自分も――。
頬に感じるひんやりとした空気。
一蹴りするだけでどこまでも滑って行けるのでは? と思えてしまう推進力とその解放感は、スケートでしか感じられないもので。
クリスがヴィヴィを回転軸にする様に、器用にスピンを回る。
自分を取り巻く景色が変わる。
360度、コマ送りのように映し出される景色、身体全体に感じる遠心力――そして、心地よい浮遊感。
スピンを終えたクリスが、またワルツポジションで面白そうに滑り出す。