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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章
足湯を終えたヴィヴィはそのまま自分のバスルームへ移動し、リンクで流した汗を落とした。
NHK杯まで後18日、中国杯まで後25日。
だからクリスはあんな強硬手段に出たのだ。
そのおかげでたった1日しかレッスンを休まなかったヴィヴィは、ジャンプもステップもスピンも、以前と遜色なく出来た。
このまま試合に臨めれば、とても高い確率で表彰台の一番上に立てるだろう。
ただし、心が着いて来れば、の話だが――。
ヴィヴィは白いバスローブを羽織り腰で紐を結ぶと、バスルームの扉を開けてリビングの隅へと歩みを進めた。
その両手がガラス戸にぺたりと張り付き、何も収められていないガラスのキャビネットを見つめるその灰色の瞳には、透明な涙がぶわりと溢れる。
「……――っ」
日曜の朝、朝比奈にキャビネットの中身を全て処分するよう、そう指示したのは他ならぬ自分。
ヴィヴィが幼少の頃から授与されたトロフィー、メダル、盾など、スケートやバレエ、ピアノやヴァイオリンに関する、輝かしい成果の象徴。
あの時の自分は、それらを目にするのが苦痛でしょうがなかったのだ。
もう自分は自分じゃないから。
匠海が求めている自分は、スケーターの自分ではないから。
兄に従順で、抱き人形の様に兄に応え、受け止め、傍にいることが自分の運命だと思っていたから。
(自業自得……。捨てちゃった物はしょうがないもん……。また、これから頑張って、頂いて行けばいいんだし……)
そう頭では言い訳をするものの、やはり自分の馬鹿な行いで処分してしまった、過去の栄光の象徴に未練が及ぶ。
特に、シニアに上がってからのものに関して。
ジュニアの時は、スポンサーもおらず、正直親子二人三脚でメダルを獲ってきた。
それに対して支え続けてきてくれた両親に感謝もしているが、やはりシニアに上がり、双子をチームとして支え続けてきてくれたコーチ陣、振付師、トレーナー、マネージャー、スポンサー、栄養士等、皆の力添えがあってこそ勝利し得たものを、自分の一時的な感情だけで処分してしまった事に、心が痛んで仕方がなかった。