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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章
「あれ? それ、ダッドも言ってた。『ファンクラブ第1号は自分だっ!』って」
「いいえ。それだけは譲れません。例え旦那様がお相手とはいえ、ファン第1号は私です」
そう言って得意げに胸を反らしてみせた朝比奈に、ヴィヴィは声を上げて笑った。
「あははっ ヴィヴィもクリスも、熱烈なファンが傍にいてくれて、幸せ者だねっ」
ヴィヴィの明るい笑い声がリビングに響いている中、次いで聞こえたのは小さなノック音だった。
その音に、先程まで笑顔だったヴィヴィの表情が瞬時に強張る。
その様子をすぐ傍で見ていた朝比奈は、ヴィヴィを置いてノックされた扉へと近付いて行く。
匠海との部屋を繋ぐ扉を開いた朝比奈の目の前に立っていたのは、兄の執事・五十嵐だった。
「お嬢様に匠海様からお話があるとの事ですが、お時間をお取り頂けますでしょうか」
それは目の前に立つ朝比奈に向かって掛けられた言葉だったが、同じ室内にいたヴィヴィにも勿論届いていた。
「……――っ」
ヴィヴィは咄嗟に息を呑むと、まるで身を守るように、バスローブに包まれた自分の身体に両腕を巻き付けた。
そして無言で自分を振り返る朝比奈に、小さく首を振ってみせた。
「五十嵐さん、申し訳ありません。お嬢様はご気分が優れない様で、すぐに就寝したいとの事です」
的確に主の意思を代弁した朝比奈に、五十嵐は自分の視界にヴィヴィが居るにも関わらず、そちらには視線を寄越さずに恭しく答えた。
「畏まりました。そのように主にお伝えします」
小さな音を立てて閉められた扉に、ヴィヴィはほっとし、無意識に自分を抱き締めていた腕を解いた。
静かに自分の傍に寄ってくる朝比奈に、ヴィヴィは薄い唇を開いた。
「ハーブティー、淹れようかな……。今日は……そうだね……、パッションフラワーと、ローズマリーにしようかな……」
そう指示したヴィヴィの声は震えていた。
それに気付いてか、すぐにお茶の準備のために私室から出て行った朝比奈に、ヴィヴィはほっとして息を吐いた。