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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章
「お嬢様。そろそろ、宜しいかと」
遠慮がちに掛けられた朝比奈の声に、ヴィヴィはぱっと顔を上げた。
「……え……?」
「ハーブティー、これ以上抽出されると、えぐみが出ると思いますよ?」
「あ……、ああ、うん……」
朝比奈のその的確な助言に、ヴィヴィは自分が今何をしていたかを思い出し、言われた通りにポットからティーカップへと注ぎ、一口 口を付けた。
ローズマリーのシャープで刺激的なスパイス感と、パッションフラワーの干し草の様な安心感を与えてくれる香りに、ふっと心が和んだのも、その一瞬だけで。
「……ヴィヴィ、調べものしたいから、書斎で飲むね……」
そう言って立ち上がったヴィヴィに、朝比奈は一礼してその背を見送った。
ヴィヴィは書斎のPCを立ち上げながら、また一口茶を啜った。
抗鬱、精神安定を求めてブレンドしたハーブも、今のヴィヴィにはほぼ効果は無かった。
スケートは続けたい。
けれど、兄と一緒には暮らせない。
そこから導き出される結論は、ただひとつ――自分が転校して屋敷を出ること。
双子が大学進学について具体的に考え始めた頃、2つの学校から指定校推薦の勧誘が来た。
1つは愛知県にある中京大学。
もう1つは大阪府にある関西大学。
両方とも学校にリンクを持ち、高等部もあり、学生寮も完備し、環境としてはとても恵まれている。
だがしかし、問題となるのは師事するコーチだ。
ヴィヴィは母であるジュリアンを、コーチとして全幅の信頼を置き、尊敬している。
他のコーチに指示を仰ぎたいと思ったことなど、一度も無い。
ジュリアンに松濤のリンクと、転校先の学校のリンクとの往復を頼む訳にもいかないし、自分の我が儘にそれでなくても多忙な母を巻き込みたくもない。
「………………」
ヴィヴィはいつの間にか突いていた頬杖から、小さな頭をふと上げる。
中京大学ならいけるかも知れない。
今は9月――SPもFPも滑り込んで完成し、あとは実践に移すのみ。
もちろん試合に出てみて、改良点も出てくるだろうが、それほどコーチにべったり張り付いてもらわなくても、アシスタントコーチ等でもいけるのではないか。