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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章
「でもどうして今頃、高校デビュー? もう卒業まで半年くらいだよ?」
お洒落に目がないケイトが、自分のメイク道具を携え、ヴィヴィにアイメイクを施しながらそう確認してくる。
「ん~~、なんとなく自分を縛り付けている物から解放されたかったというか、規則や規律という社会のしがらみに抗いたかったというか、自己のアイデンティティーを模索中というか――」
「は、はあ……?」
カレンが呆気に取られながらもそう相槌を返してきたのを見たヴィヴィは、さらに口を開く。
「つまりね、人というのは社会生活において、その場面場面において様々なペルソナ(自己の外的側面)を使い分けて暮らしているよね? けれど、ある特定のペルソナを被りきってしまった人物は、他の役割を果たさなければいけない時にまで、その仮面で生きていこうとしてしまう事があるんだよね。これらのペルソナは本来、その相手と接するときにどのような意味を持って、その相手に対して、どのような役割を果たそうとするために、自分はそのペルソナを被るのか、そのあり方を常によく自覚しておく必要があるの。本来、こういったペルソナは、自分というものが、この人間社会の他の人達と潤滑に対応するために、その要求される役割をこなすために被る“仮面”であって。実質的にただの見かけ上のもの、本来のその人自身の“素顔”とは言えないものなんだよね。これを勘違いして、相手に対してこういった接し方で接することこそが、“私自身”であり、そして自分がこう思うペルソナこそが自分の人生全てであるとして、自分には合わないペルソナを無理して常に被ろうとすると、やがてそのペルソナと自分との間にギャップが生じ、その人は不安と抑圧に駆られた人生を送る事になってしまうんだよ。で、ヴィヴィは、それが――」
その後、延々と自分の持論を展開していたヴィヴィだったが、やがて予鈴が鳴ったのを期に、そのよく動く薄い唇を閉じた。
「ま、そう言う事ですよ……。ふぅ」
そう締め括って溜め息を付いたヴィヴィの目の前、ずっとその訳の分からない呟きを頑張って聞いていたカレンが、メイクを終えたケイトを縋る様に見上げる。
「ケイト……。わ、分かった……?」
「ぜ、全然わかんないっ」