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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章       

「だから、その理由を説明しなさいって、言ってるんでしょうがっ!」

 押し問答以外の何でもないそのやり取りを、もう何度しただろう。

「…………言いたくない、です」

 ヴィヴィは結局それを説明出来なくて、また話が振り出しに戻っていたのだ。

「そんな説明で私が納得すると思ったの? グレコリーだって同じよ。理由も言わずに家を出て転校させろだなんて、聞く親がいるもんですかっ」

「………………っ」

 ジュリアンのその正論に、ヴィヴィはぎりと歯を食い縛って口を噤む。

(言える訳ないじゃないっ 実の兄に強姦されそうで夜、寝れなくて。一つ屋根の下にいるだけで精神的にも追い詰められてて、スケートに打ち込めないから――なんてっ!)

 胸の内ではそう雄弁に喚くヴィヴィのその小さな顔には、自分の思い通りにならない苛立ちと不満が滲み出ていた。

「あんたは甘い。本当に甘い、甘ったれっ! こんだけ恵まれた環境で好きな事だけさせて貰えて、それに感謝こそすれ、少し嫌な事があったからって直ぐに逃げ出そうとする! 世の中には金銭的・地理的な問題でスケートを続けられないって子は、山ほどいるのに――っ!」

 そう喚き散らす様に言った母の瞳は、色んな生徒を見てきた指導者として辛い過去を思い出してか潤んでいたのに、臍を曲げて俯いていたヴィヴィはその事に気付いていなかった。

「………………」

(“少し”嫌な事じゃないもん……っ “普通の生活に支障を来すほど”嫌な事だもんっ!)

 心の中で母の言葉を訂正したヴィヴィは、けれどそれを説明する事も出来ず、じっと俯いていた。

 しんと静まり返ったミーティングルームに、1分後に響いたのは、母ジュリアンの冷静さを取り戻した声だった。

「……怒鳴って、悪かったわ……。だから、説明しなさい。家を出たい理由を」

「…………言えません」

 譲歩したにも関わらず、頑として口を割ろうとしない娘に、ジュリアンは大きな溜め息を吐いた。

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