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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章
「じゃあ、転校の話も無しよ。以上っ」
そう話を打ち切ってソファーから立ち上がったジュリアンに、ヴィヴィは叫んだ。
「家にいたらスケート出来ないのっ だから転校したいのっ 転校を許してくれないなら、ヴィヴィっ スケート辞めるっ!!」
両膝に置いた拳をぎゅっと握り締めながら、まっすぐ母を見上げたヴィヴィは、最後の切り札の如く、そう言い放った。
が、ジュリアンから帰って来た言葉は、予想とは全く異なったものだった。
「ええ、いいわよ、辞めなさい」
「……――っ」
ジュリアンのその信じられない返事に、ヴィヴィは絶句した。
ヴィヴィは15歳で五輪の金メダルに輝き、2度の世界選手権で女王となった身。
シニアに上がる前は「浅田2世」との呼び声高かったが、今は誰もそんなことを口にしない。
それはヴィヴィがもう、今までに誰もが成し得なかった偉業を達成し続けてきているから―― 唯一無二の存在だと認められていたから。
「そんなガキで甘ったれが生き残れるほど、この世界は甘くないわ! とっとと辞めなさいっ」
「………………っ」
ISU世界ランキング1位。
将来を嘱望されたヴィヴィに投げかけられたのは、そんな現実を突き付ける言葉だった。
『ヴィヴィとクリスが居てくれて、本当に良かった。日本の、いいえ世界のフィギュア人気は、すべて2人が支えてくれているのよ?』
『え~っ 来シーズン、双子はアイスショー出れないの? まずいな……。チケット、はけるか?』
最近の双子に関係者から掛けられる言葉は、そうちやほやする言葉ばかりだった。
だからヴィヴィは完全に調子に乗っていた。
万が一、母が自分の転校を認めないと言った時、「スケートを辞める」と脅せば、最終的に自分の主張が通るだろうと。
愕然としたヴィヴィは母から視線を落とし、その足元を見つめていた。
「ふぅ……。ヴィヴィ、少し、頭冷やしなさい……。匠海はあんたを庇ったのよ?」
その母の言葉に、ヴィヴィはばっと音がしそうな勢いで頭を上げた。
「…………っ!?」
(何で、そこでお兄ちゃんが出てくるのっ!?)