この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章
帰宅して足湯も就寝準備も済ませたヴィヴィは、寝室に下がるとベッドの中でうんうん唸っていた。
(どうしたら、ヴィヴィ、中京大学に行けるんだろう……)
目下の悩みはそれだった。
少々――いや、大分論点がズレてきているのに、本人は気付いておらず、真剣に悩んでいた。
(マムを通り越して、スケ連に転校の斡旋を頼もうか……? それとも、直接中京の付属高校と大学の学園長に、「転校したいんですけど」って連絡しちゃう……?)
どの案も、母が知ったら怒り狂うであろう結果だけは容易に想像がついた。
「……牧野マネージャーに、相談してみようかな……?」
ヴィヴィの薄い唇から洩れたその独り言は、静かな寝室に少し響いた。
牧野はマネージャーだが、終始双子にべったりという訳ではなく、所属しているINGというマネンジメント会社を通じ、他にも契約しているアスリートの方へ出向いていたりする。
彼は今迄色んな分野のアスリートを見てきただろうし、きっとその進路選択等も経験してきただろう。
ヴィヴィは取りあえずそこで思考を結論付けると、目蓋を閉じた。
昨夜、ヴィヴィは中々寝付けず、ようやく寝つけても悪夢を見て起きてしまった。
怖いのだ。
隣の部屋に匠海がいると思うだけで、落ち着かない。
だってヴィヴィは知っている。
匠海のもう一つの顔を――『鞭』の時の冷酷非道な兄の顔を。
いつその『鞭』の兄になって、自分を襲ってくるか。
その事に、ヴィヴィは心底恐怖を覚えていた。
(絶対に、叫んでやる……っ)
ヴィヴィはそれだけはもう、心に決めていた。
匠海が自分を無理やり抱こうとしたら、声の限りに叫んで、がむしゃらに抵抗して逃げて、兄が自分にしようとした事を、明るみに出す心積もりでいる。
そんな事をしたら兄は、妹の自分の過去の過ちを洗いざらいぶちまけるであろうが、ヴィヴィはもうそれでもいいと思っている。
(ずっとお兄ちゃんに無理やり抱かれ続けられるよりは、そっちのほうが何倍もマシ――)
そう決意したヴィヴィの鼓膜を、小さなノック音が震わせた。