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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章       

 牧野マネージャーに相談した転校の件も、「No」だった。

 今がどれだけ、金銭的にも環境的にも精神的にも恵まれた環境なのか。

 そしてそれを失った後――結果が着いて来なくなった時の悲惨さや、“後悔先に立たず”な事を、何回にも渡ってこんこんと説得されたヴィヴィは、もう転校を諦めるしかなかった。

 そして、転校を諦めたヴィヴィは、またクリスと東大受験の為の勉強を始めた。

 どうせどこかの大学へ、進学しなければならないのだ。

 だったら自分が行きたかった大学へ、行けばいいのではないのか。

 そう当たり前の結論に達し、また暖かく妹を迎え入れてくれたクリスと、ヴィヴィは一心不乱に勉強に励むのだった。







 10月2日(木)。

 ディナーを採った双子がリンクへと向かう車中、それぞれの手元にあるiPadからは、木下ジャパンオープン2020の放送が映し出されていた。

 例年自分達もシーズン初戦として出場していたその試合を、こうやってテレビで見ているのは何だか変な気分だった。

 篠宮邸からリンクまでという短い移動距離では、ほとんど放送内容も分からなかったが、意外な事にこの事がヴィヴィにNHK杯初戦に向けての闘争心に火を着けた。

(グランプリシリーズ初戦のNHK杯で、絶対に優勝したい……。絶対に――!)

 そうする事で、兄に「自分は自殺なんかしてやらない」という意思表示にもなるし、「死ぬまでスケートを続ける」という自分の決意表明にもなる気がしたのだ。

「ヴィヴィ、着いたよ……?」

 クリスにそう促され、ヴィヴィはリンクに着いたベンツから降りる。

 そして隣を歩くクリスに、ヴィヴィは宣言した。

「ヴィヴィ。絶対にNHK杯で、優勝する!」

 妹のその発言に、クリスは一瞬、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした。

 と言うのも、実はヴィヴィが優勝を宣言したのは、シニアに上がって初めての事だったのだ。

 表彰台に上がるのは二の次で、とにかく自分の納得のいく演技をする事、日頃の練習の成果を発揮する事――ここ数年はそれを目標として掲げていた妹の、まさかの優勝宣言。

「……じゃ、僕も、優勝する……。うん、絶対に……」

 そう妹に続いたクリスの宣言に、ヴィヴィはにっこりする。

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